崖っぷちアラサー奮闘記 written by 内埜さくら Vol.5

崖っぷちアラサー奮闘記:夜の銀座は、弱肉強食!食うか喰われるか、餌食は男か女か?!

前回までのあらすじ

北岡涼子、30歳、元女優。社会人経験なし、資格なし、貯金なし。芸能界で活躍したが、徐々に干されて今に至る。就職活動をしようにも、「綺麗」以外の特性がないため続々と不採用通知を受け取る。

そんななか大先輩の小田につれられて足を踏み入れた、銀座の超高級クラブ『銀華』の由紀ママにひょんなことから店にスカウトされる。

逡巡する涼子だが父親が倒れたという連絡が入り、もはや仕事を選べる立場ではないほど逼迫していることに愕然とする。すぐに由紀ママに連絡を取り、働き始めることに。

そして今日が、銀座の蝶として働く初日だが、早速トラブル。初めて着く卓のお客様が、出版関係だというではないか。元女優として、気まずい涼子だが……?

第4話:崖っぷちアラサー奮闘記:銀座初出勤!今宵、招かれざる客のお相手をするハメに……!

 女優として売れずに事務所から解雇された過去を、まだ自虐ネタにできない涼子は、待機席から動けなくなってしまった。ホステスとして最初に接客するお客様が、もっとも会いたくないマスコミ関係者である、出版社最大手の集学館だったからだ。

――由紀ママかチーママにすべてを打ち明けて、席につくことを避けてもらおうか……。

 そんな事情を抱えているとは知らないチーママの小百合が、振り返って声をかけた。

「涼子ちゃん、どうしたの? 早くこっちへいらっしゃいよ」

 屈託のない笑顔で自分を手招きするチーママに促され、涼子は無意識に一歩を踏み出していた。踏み出した瞬間、腹が据わった。

――銀座で生きていくって決めたんじゃない。決めたんだから、泥水を飲んででもはい上がってやるわ。

 そう決意して集学館の人がいるという席につくと、チーママが新人である自分たちを紹介した。

「この子たち、今日が初めてなんです。しかも正真正銘、このお仕事、今夜が初めてなんですよ。ラベンダー色のドレスが涼子さん。ベージュが紗耶香さん。おふたりとも美しいでしょう? 新藤さん、かわいがってあげてくださいね」

 新藤を紹介された涼子と紗耶香が、名前と連絡先を記入しておいた名刺を差し出す。

「おっ、新人さんかぁ。いいねえ、その緊張した感じが初々しくて」

 名刺を受け取りながら涼子と紗耶香を眺める新藤の、男としての下心を透かさない、温かな視線を発見して涼子は、昨日の黒服の言葉を思い出した。

「銀座はカジュアル化が進み、安く遊べるクラブも増えてはいますが、『銀華』は違います。そういった店を否定はしませんが、当店は、日本一地価が高い銀座にある高級クラブとしての矜持を守る存在であるべきだ、と考えております。ですから、遊びにいらっしゃるお客様も一流の方々がメインです。お客様は、決して安くはない銀座で遊ぶことをステータスとしています。下品なお客様がゼロとは申しませんが、綺麗な遊び方をしてくださる方が大半ですよ」

――きっと新藤さんは、銀座で遊ぶことをステータスにしていらっしゃる方なんだわ。
 彼の眼差しからそう推量した涼子は、新藤から渡された名刺を確認する。

 雑誌『美sion(ビジョン)』編集長 新藤典之

 その雑誌は涼子と同年代のアラサーOLを対象とした女性誌だが、女性誌に登場できる女優は、いまが旬か、安定した人気を誇るか、ブレーク間近の人材が基本である。そのため、25歳をすぎたときにはすでに人気が凋落していた涼子には、女優としては縁がない雑誌であった。

 次に、チーママが新藤と来店した男と名刺交換しているのに、涼子と紗耶香も倣う。

 カメラマン 江木浩二

 巨匠クラスは別として、マスコミの世界にはカメラマンが無数にいるため、名前には記憶がなかった。だが、チーママと名刺交換をしていたということは、彼はこの店が初めてなのだと把握した。そして、左から紗耶香、江木、涼子、新藤、そして前にチーママというポジションで席につく。

 黒服が運んで来た新藤のボトルを手に、涼子は水割りを作る。事前に作り方を習ったものの、初めての経験に緊張していると、新藤が涼子に話しかけた。

「あれ? 涼子ちゃんって……」
 顔を覗き込む新藤に、涼子はドキッとした。

――女優だったことがばれた!?

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