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東京DINKS Vol.7

東京DINKS:「負け犬」の呪縛から解放された女たちが、手に入れたものとは…

「でもあの本で本当に伝えたかったのは、そんな脅しじゃないのよね、きっと。」そう言って恵は、腕を組んだまま自分でうんうん頷き始めた。

「そう、負け犬かどうかじゃなく、やっぱり女のヒエラルキーの頂点は既婚、子ありの女なのよね。そこに高収入の旦那、自宅サロンっていうアイテムが揃えば完璧かしら。」愛子は左の口角だけをあげて少し意地悪そうに言った。

「サロン!旦那の資金を元手に、趣味を仕事にしましたーってやつね。でも私の思う頂点はVERYのモデル、滝沢眞規子よ。」と明日香。

「わかるー!」同時に頷く愛子と恵には反応せず、明日香は続ける。

「彼女に向けられる嫉妬と羨望は、すごいだろうね。ってそんなことより話を戻すけど、結婚っていうのは人生を共に戦っていく味方であり、自分で選んだ家族を得ることだと私は思ってるよ。」

「親は選べないけど夫や妻は自分で選べるもんね。でも夫婦だけだとあんまり家族っていう感じがしないんだよね。私たち、DINKSとは言われても、ファミリーとは言われないじゃない?だとすると、子どもがいないと家族にはなれない?」愛子の軽い投げかけに、不意に沈黙が訪れた。

いつもは真っ先に答えを返す恵も、愛子のこの問いにはすぐに返してこなかった。

「実は私ね、一時期頑張ってたのよ妊活。」

沈黙を破って、明日香がゆっくりと話し始めた。

「1年ぐらい不妊治療で原宿の病院に通ってたの。でも、仕事しながらの通院は大変だし、そこまでして子どもが欲しいのかもわかんなくなってきてね。だから一旦休憩して、30代後半のリミット手前でやっぱり欲しいってなったら、次は治療に専念しようって話し合ったの。それまでは、お金を貯めながら、子どもがいたらできないような贅沢とか時間の使い方をしておこうって、気持ちを切り替えることにした。」

「そうだったんだ…知らなかった。」

愛子と恵は初めて聞く話しだった。

「黙っててごめんね。通院中はあんまり人に言う事が出来なくて。恵は、誠さんが前の奥さんとの間に息子さんがいるから、恵とは子どもを作らないって結婚前から宣言されてるんだよね?」明日香が恵の方に向き直り、問いかけた。

「そうだよ。最初こそ少しの葛藤はあったけど、やっぱり私は誠と結婚することが一番大事だったし、その気持ちは今も変わってない。だからこれからも子どもはつくらない。」恵はきっぱりと言った。

「DINKSには、愛子みたいに最初から子どもを持たないって決めてるカップルもいれば、そうじゃないカップルも多いのかもね。」そう言って明日香は、愛子と恵の顔を交互に見た。

「何で女だけ、結婚、出産をこうも追いたてられるんだろう。まあ、産めるのは女に与えられた特権でもあるけど。それにしても、女は求められるものが多い!」愛子がちょっと怒った風に言うと

「女も求めるけどね。そしてやっかいなのが、女たちは『人よりもちょっと良いもの』を求めちゃう。特に、東京で仕事を頑張ってる上昇志向の強い女たちはね。あ、もちろん私もだけど。」恵はペロッと舌を出しながら笑って「よし、もう1回乾杯しよ!」そう言ってグラスを上げる。

10年前の『負け犬論争』をくぐり抜けた女たちは、テーブルを囲み今日も高らかに笑っていた。

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東京DINKS

国内で360万世帯いるといわれる、意識的に子どもを作らない共働きの夫婦、DINKS(=Double Income No Kids)。東京のDINKSの生態を描いていきます。

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