96c253311353d0c94c6124b9e767ad
#東京悪女伝説 Vol.3

その名はサエコ:冴えない35歳女、後輩のリア充ぶりに感じる嫉妬。


それでも、育ちのいい彼女たちは、私を仲間外れになどすることもなく、授業後には私も漏れなくお茶に誘ってくれました。

広尾にあるキャンパスから、六本木までタクシーで1メーター。向かった先は、『ザ・リッツカールトン東京』の45階にある『ザ・ロビーラウンジ&バー』。彼女たちは、テストお疲れ様の「ご褒美」と、4,000円のアフタヌーンティーを頼むのです。私は「ダイエット中だから」と、一人ハイティーを注文する切なさ、わかりますか?

「津田塾にいるはずだった自分」というアイデンティティにすがりながら、この浮ついた同級生たちをどこかで見下していました。見下すことで、崩壊しそうな自分を繋ぎ止めていたのでしょう。気付いたら、マカロンカラーのファッションで溢れるキャンパスにおいて、「ここは私のいる場所じゃない」という根拠無根のプライドだけが増長し、人を妬むばかりの灰色の4年間でした。


就職活動もせず、家事手伝いという大義名分の安定職に内定している同級生たちを尻目に、リクルートスーツを着て、「私にふさわしい場所」を求めて今の会社にたどり着きました。この会社名を言った時の、同級生たちの賞賛・・・「すごい」と言われるほどに、契約社員であることは言い出せず終いで卒業式を迎えました。

そう、この汐留にあるビルで働きたくて、契約社員として潜り込んだのです。


一流のスーツを着たいかにも高学歴らしいサラリーマン、洗練された洋服を身に纏ったスタイルの良い女性たちが闊歩する汐留の街。その中でも一際目立つ高層ビル。

そのビルの、エントランスをハイヒールの音を響かせて、背筋を伸ばして歩く自分。エリートたちが集う会社で、契約社員ではあるけれど、働ける喜び・・・

これこそが私が求めていた場所。
これこそが私にふさわしい場所。

エレベーターがぐんぐん上がり、東京の街がどんどん下に小さくなっていく景色を見ながら、トクトクと自尊心が満たされていくのを感じました。

サエコに出会ったのは、ようやく居場所を見つけたその2年後のことです。



彼女と出会った時、少しだけ同じものを感じました。

うちの会社、正直コネ入社がとても多いんです。東京のすごい大金持ちの娘とか、派手な美人のお嬢様とかが配属されてきたらどうしようって内心ヒヤヒヤしてました。何一つ勝てる気がしない年下の女の子たちに対して、どのツラ下げて、先輩然としていられるのでしょう。

けれど、配属されてきたサエコは、派手な美人ではなく、控えめな、どこか透明感のある可愛らしさで、すぐに好感を持ちました。聞けば、実家は大分で、私の地元・福岡よりも田舎の出身。もちろん、大学は慶応だけれど、私も真っ当に行けば津田塾大学でした。そんなに大きく水は開けられていないはずですよね?

ご実家も、すごいお金持ちでもなさそうだし、彼女も私と同じ、大学時代の周りの派手な生活に指を咥えながら、今のこの大企業を「勝ち取った」組だと思ったんです。

今まで辛酸を舐めてきたであろう彼女に、東京の美味しいレストランをたくさん教えてあげよう。

素敵な男性がいる合コンにもたくさん連れて行ってあげよう。

数えるほどしか行ったことないけど、先輩風を吹かせて、六本木のクラブにも連れて行ってあげよう。

はじめて妹ができたような、くすぐったい気持ちになったのを覚えています。

この記事へのコメント

Pencil solidコメントする

コメントはまだありません。

#東京悪女伝説

絶世の美女ではない。だけどなぜかあの子には男が途切れない。あなたの周りにもきっといる、そんな女のお話です。

この連載の記事一覧