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東京☆ビギナーズ Vol.2

東京☆ビギナーズ:決戦は金曜日。「ご飯が普通。こんな合コン嫌」と麻布十番で言われた衝撃。



3時間後、まだ終電がギリギリある時間帯に、男性一行は麻布十番の右京にいた。

「あんなに頑張って盛り上げたのに、なんで終電前に帰るかな…」

日本酒を飲みつつ、名物の卵かけトリュフご飯を口に運びながら、シンゴはクダを巻いていた。

「まぁまぁ。」と同僚になだめられながら、さっきまで一緒にいた合コンの女の子たちが、早々に一件目で帰ってしまった件について、終電までグチグチと話していた。

―俺はもう少しここで飲んでいくか…―

同僚と別れた後も、カウンターで一人飲み続けることにした。一人で飲む事自体は彼にとって珍しいことではない。だが、転勤から2週間と少し、右も左もわからないまま仕事では初受注を達成し、今日の合コンを終え、内心、静かにひとりで一息付きたいと思っていたのだ。

―まあでも、今日は早めに解散してしまったけど、それなりに盛り上がったし、この先、誰かとデートに繋げられたらいいな…。玲子ちゃんかわいかったな…。―

そんなことを思っていた矢先、携帯電話が鳴り響いた。後輩の優子からである。
さては早く帰ってしまった謝罪だなと、勢いよくと電話をとった。

「優子です。先輩、今日はありがとうございました。相変わらず先輩は面白いですね、とっても楽しい時間でした。ただ…正直さっきのあのお店…、アレは無いです!玲子もちょっと機嫌悪くなっちゃって…。」

―え、お店が最悪!?一体どこが…。―

面を食らって、恐る恐る優子に聞くことにした。

「そんなこともわからないんですか!?これだから大阪から出てきたばかりの人は…。」

まだ少しお酒が残っているのか、勢いよく怒ったりあきれたりする優子に、一言モノ申したい気持ちを抑えて下手にでつつ、教えを乞うことにした。

「仕方ないですね…先輩だから教えてあげますけど…。ポイントは三つありますから。」

―お前はマッキンゼーか!てか三つもあるんかい…。―

「まず場所!大して知りもしないのに麻布十番選ぶんだったら、20代前半の子は無難に恵比寿とかでいいんですよ!そして、二点目は駅から歩いて8分もかかったところですね。私たちの間では、駅から7分以内ルールは絶対なんですよ!玲子が7分たった瞬間に『うわ、駅からもう7分も歩いてる!足痛いよー最悪―!』って、あからさまに怒っちゃって…。そして最後にもう一つ。」

既に何を言われているか理解できない。どちらかといえば、優子とは育ってきた環境は同じはずなのに、こうも好き嫌いは否めないものなのか…。

―も、もう一つは?―

「ご飯が普通。」

― ………。―

「せっかくの金曜日なのに、普通のご飯じゃ嫌なんですよ。アヒージョとか、エビ的アボガド的なものとか、大学生じゃないんだから…。もし、ドリンクで鏡月なんて出てこようものなら、即・解・散!でしたよ!」

― 参りました…。―

思いがけない厳しい言葉の洗礼に、言葉を失い、この後ショックのあまり閉店するまで日本酒を飲み続け泥酔した。果たして俺は、無事に東京の荒波を乗り越えることができるのだろうか。

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東京☆ビギナーズ

大阪から東京に転勤してきた、大手インターネット広告代理店に勤める28歳シンゴの上京話。

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