「ふたりのニコライ」―作家・柴崎竜人の恋愛ストーリー Vol.3

美人の双子に挟まれて 「ふたりのニコライ」第三話

前回までのあらすじ

高校時代、読書研究会というドマイナーな部活で世界を呪いながら学生生活を送っていた僕。社会人となり、ふらりと入った立ち飲み屋で再会したのは、高校のアイドル・大崎夏帆だった。「僕はもう高校時代の僕じゃない、いっぱしの恋愛武士なのだ。よし大崎夏帆を口説き落としたる」と腹を決めたものの、双子の美女のどちらが大崎夏帆かわからず……

前回:双子姉妹に征服された夜「ふたりのニコライ」第二話

酒が好きだと言うだけあって、実際にモナコもニースも居酒屋でチューハイを飲むペースは早かった。アルコールにつよいことは間違いない。清楚という概念を擬人化したような高校時代の大崎からは考えられないことだった。もし高校生のころに大崎の肝臓が強靱であることを知っていたら、僕はどうしていただろう。

考えるだけ野暮だ。萌え悶えていたに決まってる。

それは言葉遣いの綺麗なお姉さんが、シンプルなワンピースの下にど派手な下着を身につけているのと同じ衝撃を高校男子に与える。「こんな可憐な少女の肝臓が強靱だなんて!」と。

気づけば、一軒目の居酒屋で僕は想定以上のアルコールを摂取していた。高校時代のアイドルと再会し、緊張していたこともあるだろう。いくらチューハイとは言え、ジョッキで三杯も飲めばそこそこ酔いが回った。
しかしそんな僕と比べても、モナコとニースはさらに倍以上のペースで酒を飲みつづけた。彼女たちの細いからだのどこにアルコールが流れ込むのか不思議なくらいだった。それでいて、トイレへ立つときは手をどこかへつくこともなく、素早くすくっと自立する。そのまま出社できそうなほどしっかりとした足取りでトイレへ歩いて行った。

僕は純粋に彼女たちの肝臓のつよさとアルコールへの貪欲さに驚いたが、二軒目のバーではさらに驚愕させられることになった。
店を変えて六本木の『bar book』へ移動すると、一杯目に、双子は二人揃ってニコラシカを注文したのだ。双子が平凡どころか深刻な酒好きであることは明らかだ。

ここでまた僕の脳内に巨匠のありがたいお言葉が響いた。

「バーで注意が必要なのは女が飲んでる酒の種類だ。シェイカーが必要なカクテル類なら構わないが、その女が生のスピリッツを飲んでいた場合は、知的水準が高い。知性を武器にできないようなら、逆にプライドをズタズタにされて血まみれになるぞ」

女の子を口説くのは命がけだ。生半可な覚悟では口説けない。

ニコラシカはカクテルとはいえ、レモンと砂糖が添えてあるだけの生のブランデーだ。それもシェイカーを用いずにレモン・砂糖・酒をそれぞれ口に含んで三つ巴、口内で渾然一体となって輝いた瞬間に勢いよく嚥下するという、とんでもなく荒っぽいカクテルだった。「ニコラシカに辿り着く前に生涯を終える酒飲みも多い」と巨匠が背筋を震わせて言っていたことを僕は思い出した。

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