港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
▶前回:「なぜ別れないといけなかった?」元恋人に数年後に直球で尋ねたら…
「もっと具体的に教えてよ。なんで友坂くんのセリフの方が、このシーンに相応しいのか」
主演俳優、小林の口元は微笑みを描いたが、目は笑っていない。それでも大輝は臆することなく、まっすぐに切り出した。
「僕は小林さんのお芝居が大好きで、これまで、たぶん全ての作品を拝見しています。その上で…ずっと気になっていたことがあります」
「何?」
「時々、役ではなく、小林さん自身にしか見えなくなる瞬間があるんです。小林拓人という人間が、役柄を凌駕してしまう。きっとその時も、現場でご自身のやりやすい言葉や仕草に変えられているんじゃないでしょうか?
今回、小林さんが提案されたセリフも、小林さんらしすぎて役柄のキャラクターや心情から離れてしまっている。だから、反対なんです」
― あらら。そんなにダイレクトに。
若いな、と崇は心で苦笑する。小林の芝居は“らしさ”が強くそれが唯一無二の存在感に繋がっているのは間違いない。けれど作品にのめり込むあまり、その自我に役柄が喰われてしまうことがあるのも事実だった。
一昨年、ハリウッドで日本人初の快挙を成し遂げてからは、その傾向に拍車がかかっていたが、今やプロデューサー陣はおろかマネージメントですら彼の顔色をうかがい、誰も面と向かって意見など言えない。
― でもそれを含めて小林拓人の華なんだよ。
同世代で、駆け出しの頃から苦楽を共にしてきた崇の言葉なら耳を傾けてくれる。そんな崇でさえ、小林の華を殺さぬよう伝え方には細心の注意を払っているというのに。
「大輝、意見を言うのは大切なことだ。でも、伝え方に気を付けないと。圧倒的にキャリアの違う先輩に対して今の言い方は失礼だ」
大輝を制し、「この子、時々、まっすぐ過ぎて。ごめんね」と小林へ頭を下げる。これで場を収めたつもりだったが、崇はぎくりと息を呑む。大輝の瞳は凛としたまま、少しも揺らいでいなかった。
「臆して違和感を伝えない方が失礼じゃないですか?小林さんがこの役を愛してくださっているのは良く分かってます。だからこそ、このキャラクターを生み出した僕には、小林さんに真っすぐに向き合う責任がある。違いますか?」





この記事へのコメント
薄っぺらでありがちなものになりそう
ですが、これ程鮮やかなストーリーに
編めるんですね。
しかも極上のエンタメ要素を散りばめ
て… 恐ろしい才能。