深夜1時のペンディング Vol.1

ドタキャンに深夜の呼び出し…。33歳商社マン彼氏との恋に未来はありますか?

有栖川匠

恋愛には、待つことが付き物だ。

会える日を待つ。返事を待つ。言葉にしてくれる瞬間を待つ。

けれど、待たされ続ける時間は、愛ではなく不安を育てる。

相手を尊重することと、物わかりのいい女でいることは、とても間違えやすいから

──恋人を遠くに感じる深夜1時の恵比寿の空は、いつもより暗くなる。

これは、保留ばかりの恋と人生をもう一度動かし始めるための、恋愛のリスケの物語。


Vol.1 予定はペンディング


金曜、23時47分。

恵比寿駅西口、アトレ前のタクシー乗り場には、帰路を急ぐ行列が途切れず続いていた。

深夜の恵比寿の空気は、昼間のオフィス街とは違う熱気があり、少しだけ“正直”だ。

酔いにまかせて肩を寄せ合う男女たち。

それを横目に、私はスマホをチェックする。

『ごめん、あと15分。投資先の相談が長引いてる』

待ち合わせは、23時半の予定だ。もっとも、約束が決まったのもたった2時間前なのだけれど。

『今夜、少し会える?』

彼から送られてきたったその一行のLINEに、残業中だった私は『会えるよ』とすぐに返したのだ。

明日の朝は早い。資料もまだ仕上がっていない。それでも、会える機会を逃したくなかった。

交際して半年。恋人に会うためなのに、彼の空き枠を押さえるような感覚が、まだ消えない。

いつものカウンターバーに入り、先に水だけを頼む。氷がカラリと音を立てた15分後、濃紺のウールコートを片手に揺らしながら、彼が現れた。

「ごめん、真理恵。寒くなかった?」

息を切らしてはいない。焦ってもいない。ただ、上質なテーラードジャケットのかたを少し竦め、心から申し訳なさそうな目をする。だから私は、用意していた小さな棘を飲み込むしかない。

「大丈夫だよ。私もさっき着いたところ」

本当は28分、待っていた。彼は隣に腰を下ろすと、メニューを開かずにバーテンダーへ告げる。

「この前のシャンパン、まだあります?彼女が好きだって言ってたやつ」

銘柄まで覚えている。こういうところが、ずるい。

「神崎さん、明日も早いんじゃ――」

言い終える前に、彼がこちらを見た。

「今は仕事じゃないし、名前でいいよ」

「……亮(りょう)さん」

おずおず呼ぶと、亮さんは少し嬉しそうに笑った。なのに私の胸は――反対に苦しくなる。

理由は自分でもわかっていた。

会社では“神崎さん”。プライベートでは“亮さん”。

呼び方を変えただけで、ふたりの距離まで変わるわけではないから。

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有栖川匠

恋愛には、待つことが付き物だ。

会える日を待つ。返事を待つ。言葉にしてくれる瞬間を待つ。

けれど、待たされ続ける時間は、愛ではなく不安を育てる。

相手を尊重することと、物わかりのいい女でいることは、とても間違えやすいから

──恋人を遠くに感じる深夜1時の恵比寿の空は、いつもより暗くなる。

これは、保留ばかりの恋と人生をもう一度動かし始めるための、恋愛のリスケの物語。

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