恋愛には、待つことが付き物だ。
会える日を待つ。返事を待つ。言葉にしてくれる瞬間を待つ。
けれど、待たされ続ける時間は、愛ではなく不安を育てる。
相手を尊重することと、物わかりのいい女でいることは、とても間違えやすいから
──恋人を遠くに感じる深夜1時の恵比寿の空は、いつもより暗くなる。
これは、保留ばかりの恋と人生をもう一度動かし始めるための、恋愛のリスケの物語。
Vol.1 予定はペンディング
金曜、23時47分。
恵比寿駅西口、アトレ前のタクシー乗り場には、帰路を急ぐ行列が途切れず続いていた。
深夜の恵比寿の空気は、昼間のオフィス街とは違う熱気があり、少しだけ“正直”だ。
酔いにまかせて肩を寄せ合う男女たち。
それを横目に、私はスマホをチェックする。
『ごめん、あと15分。投資先の相談が長引いてる』
待ち合わせは、23時半の予定だ。もっとも、約束が決まったのもたった2時間前なのだけれど。
『今夜、少し会える?』
彼から送られてきたったその一行のLINEに、残業中だった私は『会えるよ』とすぐに返したのだ。
明日の朝は早い。資料もまだ仕上がっていない。それでも、会える機会を逃したくなかった。
交際して半年。恋人に会うためなのに、彼の空き枠を押さえるような感覚が、まだ消えない。
いつものカウンターバーに入り、先に水だけを頼む。氷がカラリと音を立てた15分後、濃紺のウールコートを片手に揺らしながら、彼が現れた。
「ごめん、真理恵。寒くなかった?」
息を切らしてはいない。焦ってもいない。ただ、上質なテーラードジャケットのかたを少し竦め、心から申し訳なさそうな目をする。だから私は、用意していた小さな棘を飲み込むしかない。
「大丈夫だよ。私もさっき着いたところ」
本当は28分、待っていた。彼は隣に腰を下ろすと、メニューを開かずにバーテンダーへ告げる。
「この前のシャンパン、まだあります?彼女が好きだって言ってたやつ」
銘柄まで覚えている。こういうところが、ずるい。
「神崎さん、明日も早いんじゃ――」
言い終える前に、彼がこちらを見た。
「今は仕事じゃないし、名前でいいよ」
「……亮(りょう)さん」
おずおず呼ぶと、亮さんは少し嬉しそうに笑った。なのに私の胸は――反対に苦しくなる。
理由は自分でもわかっていた。
会社では“神崎さん”。プライベートでは“亮さん”。
呼び方を変えただけで、ふたりの距離まで変わるわけではないから。







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