TOUGH COOKIES Vol.68

16歳で夢を叶えた天才歌姫が絶望し海外逃亡。すべてを失った女が始めた「復讐」の全貌

SUMI

「私、自分が抜けてからもQUINTZ(クインツ)のチェックはしてたんですよ。普通はそういう情報を避けたくなりそうじゃないですか?でも私は、他のグループのチェックも続けてました。見たら見たで、悔しくて羨ましくて泣いてしまうこともあるのに、どうしても見るのをやめられないんですよ。

ああ、私はやっぱり歌いたいんだなって。自分がめちゃくちゃ諦めの悪い性格なんだってことを、はじめて知りました」

小さく舌をだしたYUMEに、ともみは首を横に振った。

「才能があるからだよ。だから諦められないの」

ともみは芸能界を去って以来、一度も“歌いたい”とは思ったことがないし、過去の映像を見れば、少しの痛みを覚えつつ、ただ懐かしいと思うだけだ。自分とYUMEとはこうも違ったのだと改めて思う。

「QUINTZ(クインツ)は、YUMEのグループだった。それは間違いなく」

「“天然”美人で、ビジュアル担当。何でもそつなくこなすリーダー…っていうともみさんが、一番人気だったのに?」

「そんなの、YUMEがいてくれたからこそだった、ってすぐにばれたじゃない」

YUMEという圧倒的なボーカリストを失ったことで、曲調が大幅に変更されることになったQUINTZの寿命は短かった。どんなに難しい曲でも自在に歌いこなすYUMEがいた。それが他のアイドルグループとは一線を画したQUINTZの個性だった。ファンたちの審美眼の厳しさを、プロデューサーの公子も音楽を統括していた真壁リオも甘く見ていたのだと思う。

YUMEの脱退は、ともみのようなビジュアル担当やバラエティで体を張るようなメンバーの活躍でも補えなかった。YUMEを切り捨てたというのに、自分たちでは実力不足。その情けなさがメンバーそれぞれの心に影を落とし、空気もギスギスし始めたのだ。

メンバー同士の不仲がささやかれ始めると、ファン離れはさらに加速した。当然曲は売れなくなり、一回り小さくなったライブ会場でも空席が目立つようになった。そのうちに真壁リオが、沈みゆく船から逃げるように新しいガールズグループを誕生させた直後、QUINTZ-Gは解散となった。

「でも、私はともみさんの歌が好きでしたよ」

YUMEの不意打ちに驚いたともみの意識が過去から戻る。

「私の、歌が?そんなわけないでしょ」

面白味のないボーカル。散々そう評されてきたのに。

「基本に忠実で、ぶれることがない。自分が目立とうとするわけじゃなく、メンバーの歌声をそっとサポートしてくれるような。隣で歌うと心強かった。グループには不可欠な声だったと思います」

「私にはそれしかできなかったから。個性がないってことだよ」

「そう言う人もいるかもしれないけど、めちゃくちゃ性格が出てましたよね」

「私の性格?」

「ちゃんとしてて、真面目で我慢強くて」

「…」

「ともみさんは、子役の頃から芸能界にいるから警戒心が強くて、簡単には人を信用しないし、自分を見せてくれることもない。リーダーっていうだけで、大人たちに怒られても、辛いことは全部1人で抱え込んで対処してくれた。

本当は誰より熱いくせに、私たちをクールになだめたり。でも、そういうともみさんだから、私は誰より信頼してました。ともみさんの隣にいれば安心できた。私はともみさんのことが大好きでした」

YUMEの瞳に幼く無邪気な輝きが戻った気がして、ともみの胸がむず痒くなる。

「久しぶりに会っても変わらない。ともみさんが変わってなくて良かった」

「私は結構…変わったつもりだけど」

あの頃の自分を否定するつもりはない。けれどあの頃の自分を振り切りたいのだと、ともみは“今”へと話を戻す。

「さっき、復讐を手伝って欲しい、って言ったけど、具体的に方法は決めてるの?」
「さすがともみさん、冷静だなぁ」

YUMEはおどけながら、携帯を取り出した。


「これ、整形前の私です」
「…」

デビュー前からレッスンを共にし、整形前のYUME…いや、夢子と会ったことがあるともみにとっては懐かしいつぶらで純朴そうな瞳の少女の写真。意志の強そうな骨ばった顎の輪郭と純朴そうな丸い鼻も、確かに今のYUMEとは別人だけれど、整形しなければデビューできないほどだったのだろうかと、改めて思う。

「整形前のこの顔をさらそうと思います」
「さら、す?」

YUMEは力強く頷いた。

「今SNSでバズっているシンガーは、元QUINTZ-GのYUMEであると名乗り出ます。そして、元々の顔はこれで、デビューを条件に、未成年で違法な整形の提案を受けたのだと告白します。歌えなくなったから脱退したのだということも全部話そうと思います」
「ちょっと、待って」

確かにそれは2人にとって…既に落ちぶれている松本公子はともかく、真壁リオには大打撃になるだろう。彼女は今も世界的な人気を誇るガールズグループのプロデュースをしていて、確か未成年のメンバーもいたはずで。YUMEの告白により、メンバーの管理方法を疑われることになるだろうし、復讐としては一定の効果を生むだろう。でも。

「それじゃYUMEだって傷つくよ?」

徐々に整形への偏見はなくなっているとはいえ、元々の容姿をいじる誹謗中傷は絶対に来るし、無傷で済むとは思えない。それに今業界で圧倒的な力を持つ真壁なら、訴えを握りつぶしにかかるだろう。どんな方法を使っても。それと闘うためには。

「証拠はあるの?整形をあの2人に強要された…というかそそのかされて、違法な病院で手術したと証明できないと…」

負けてしまう。それどころか事実無根ともみ消され、名誉棄損で訴えられる可能性もある、と続けたともみに、YUMEは首を横に振った。

「残念ながら…証拠はありません。あの頃の私は幼過ぎて…当時のやりとりを録音していたわけでもありませんし、手術をした医師は…完全に2人の味方でしょうから。自分が違法手術をしたことがバレたら、免許はく奪だけでは済まないでしょうし、証言をしてくれるわけはありませんよね」

だったら…と口を開いたともみを遮ったYUMEの瞳に熱が籠った。

「だから、ともみさんの力が必要なんです。バズった私に連絡してきた公子さんが…懲りずにまた私を利用しようとしているのが許せなくて。私はこの復讐を思いつきました。そして公子さんの話にのるフリをして、まずはともみさんを探してもらう。その上で、ともみさんに私の協力者になってもらおうって思ったんです」

「私にできることなんて…」

「あります。今のともみさんにしかできないことが。私のためだけじゃなくて…もう二度と私みたいに――大人たちに夢や才能を利用される子を出さないためにも…力を貸してくれまませんか」


▶前回:7年ぶりに再会した女性に突然「復讐したい」と打ち明けられた理由

▶1話目はこちら:「割り切った関係でいい」そう思っていたが、別れ際に寂しくなる27歳女の憂鬱

▶Next:6月30日 火曜更新予定

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TOUGH COOKIES

SUMI

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

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