「昔と全く変わらなくて…凄かった」
だから倒れるほどに驚いたのだ。顎を整形し、その術後の無理がたたり歌えなくなったはずのYUMEの、全盛期の歌声だったから。
「また、歌えるように…なったんだね」
医師の診断が間違っていたのか、傷ついた心が癒えたからなのか。長い年月をかけて治療したのか。聞くことは憚られたし、良かったね、というのも違う気がして、次の言葉が選べない。
するとYUMEが、ふふ、と笑った。
「あれね、私は歌ってないんです」
「…え?」
「今は、AIで何でもできちゃうから。ともみさんが聞いたあの歌は、AIに、私の昔の声を読み込ませたものです。簡単に言うと、新しく作った曲を昔の私の声で歌わせている。だから、“今の私”は一切歌ってません」
「…そんなことが…できるの?」
「少なくとも、SNSで発信する分には問題なく、って感じですね。音源として売り出すとしたらどうなるのかわからないけど。本当にすごい時代になりましたよね」
「…ということは、今は」
YUMEはあっけらかんと、「今も歌えないままですよ」と、言った。
「昔の声に戻らなくても歌えるのなら歌いたい、と思えるようにはなって。でも、いざ歌おうとすると、喉がきゅっと閉まる感じで声が出なくなって、どうしても歌えない。で、病院に行ったら、イップスだと診断されました」
「イップス…?」
「はい。よく聞くのは、スポーツ選手の例だと思うんですけど。負け続けたり、怪我をしたりして、その競技自体にトラウマを抱えてしまって。プレイしようとすると恐怖心が襲ってきたり、身体が動かなくなったりする心の病ですね」
「じゃあ…これからも、もうずっと…歌えない?」
「どうでしょうね。お医者さんも今後のことはわからないっておっしゃってました。自分ではもうトラウマなんてないつもりなんですけど、人間の体って本当に不思議で。だから今はもう歌えない私の方が日常だし、諦めてるっていうか。歌うことへの未練みたいなものも、どんどん薄くなっていますし」
「でもじゃあなぜ…歌の配信を始めたの?」
「ちょっと長くなりますけど、いいですか?」とYUMEの姿勢を正した時、熱を持ちやすいレコーディング機材のために常に低めに設定されている空調の重い音が、まるで舞台の始まりを知らせるブザー音のように、ブーン、と重なった。
「グループを抜けた後、私が青森の実家に帰ったってことは知ってますよね?」
ともみは苦い想いで頷く。公子に、YUMEがメンバーに会うことを拒んでいると言われ、別れの言葉を交わすことさえ許されないまま、両親がYUMEを迎えにきたことを聞いたけれど、実家の住所は教えてもらえなかった。
「でも、マスコミがちらほらですけど、実家の周りをうろつくようになって。私がアイドルになったことを近所の人は当然知ってるし、田舎だとそういう噂ってどんどん広がっていくから、結構な騒ぎになっちゃったんですよね」







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