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SPECIAL TALK Vol.137

~引っ込み思案だった自分に落語が扉を開いてくれた~


師匠の厳しさと優しさ。稽古中に涙することも


金丸:落語家になりたいという話を、ご両親にはいつされたんですか?

二葉:師匠を決めて、会社を辞めて入門するタイミングです。父は「できるわけないやろ。しゃべられへんくせに」って。母は「へーーーっ」て、それだけ(笑)。

金丸:どういうニュアンスの「へー」だったんですか?

二葉:「そんなん考えてるんや。好きにしたらええんちゃうん」みたいな感じやと思います。

金丸:それだけ聞くと、お母様の方が大物感がありますね。

二葉:そうやと思います。私は結構、母の影響を受けてますね。

金丸:じゃあ、二葉さんは今後さらに大物になりますね(笑)。

二葉:子どものときに、弟とふたりで、母の日にカーネーションを渡したことあるんですよ。そしたら「物あげたらええと思ったら大間違いや」って。

金丸:えっ、ありがとうじゃなくて!?あの、仲はいいんですよね?

二葉:いいですよ(笑)。少ないお小遣いからふたりで出し合って、「これは喜ぶぞ」って渡したら、そない言わはって。でも、世間で「母親に何か贈る日」にだけ花を贈ったり、その日だけ「ありがとう」って言うたりするのは違うよなって、そのとき初めて思いました。

金丸:ある意味正論ですが。じゃあ、今は普段から贈り物を?

二葉:それ以来、母親に物あげたことないです(笑)。

金丸:そっちか(笑)。ご両親は二葉さんの寄席をご覧になって、なんとおっしゃっていますか?お父様からその後「あのときは俺が間違ってた」と謝られました?

二葉:そんなんないです。でも、なぜか客席でずっと照れてはるような感じがします。

金丸:気恥ずかしさがあっても来るというのは、親心ですね。話を戻しますが、入門されたあとの修業は、どんな感じなんでしょう?

二葉:入門して最初の3年間が修業期間とされてるんですけど、結構きつかったですね。お休みなしで、毎日師匠のお宅に通わせてもらって、お掃除や洗い物とかもやる。兄弟子には「ちゃんと靴そろえんねやで」とか「ご挨拶するときはリュックおろして」とか、いろんなことを教えてもらって。

金丸:肝心の落語の練習は?

二葉:毎日自分でお稽古しますけど、師匠についてもらうのは2週間に1回です。このお稽古が「口写し」なんですよ。台本も何にもないし、目の前に師匠が座らはって、1個の話を1分とか2分に区切って話さはる。それを今度は私がそのまま話す。

金丸:勉強が苦手だったという話でしたが、それはすんなりできたんですか?

二葉:もう全然ダメ(笑)。集中したかて覚えられへん。頑張って振り絞るんですけど間違う。師匠がもう1回言ってくれはる。また間違う。その繰り返しで。

金丸:録音するのはダメなんですか?

二葉:ダメなんです。私も「こんな効率が悪いことあるか」と思ってましたけど、米朝師匠がそういうふうにお稽古つけてはったんで、そういうしきたりで。「3回のうちに目の前で覚えろ」ということで三遍稽古っていうんですけど、私が全然しゃべられへんから、師匠は三遍どころか、4回も6回も言うてくれはる。

金丸:二葉さんの見込みどおり、ちゃんと面倒を見てくれたんですね。

二葉:ほんま大変やったと思います。おかげで、師匠、どんどん髪の毛が少のなっていって(笑)。覚えられへん自分が情けないし、悔しい。師匠は怒るんやけど、怒りながらなんべんでも言うてくれはる。その優しさにグッときて、泣くっていう(笑)。

金丸:もしや、泣き虫ですか?

二葉:そうなんですよ。そんで、泣きはじめたら稽古にならんので、「もう今日はやめとこか」と終わることもありました。で、お稽古終わったら、ぶわーって書き起こして、それを次のお稽古までにすらすら言えるようにしとくっていう。でも実は一度、米朝師匠の落語を書き起こしたもので覚えて、師匠の前でやったことあるんです。「お前、なんかで覚えてきたやろ」って。

金丸:すぐに見抜かれた。鋭いですね。

二葉:助詞とか「てにをは」まで見抜かれる。「それやったら、ちゃう人のとこ行け」って言われて、もうやめときました。

「絶対なんとかなる」。根拠のない自信があった


金丸:演芸の世界って、修業が終わったあともどうなるかわからないじゃないですか。なかなかうまくいかないときに、落語の道を諦めようと思ったことはなかったんですか?

二葉:それは一度もなかったです。

金丸:それがすごい。

二葉:辞めさせられそうなときはありましたよ、なんべんも(笑)。下手やし覚えられへんし、どうやったらうまくなるのか全然分からへん。でも、絶対なんとかなるって、なんの根拠もないけど自信だけはあって。

金丸:根拠のない自信って、無限のエネルギーなんですよ。できる人が自信を持つのは当たり前ですが、できていないときに「きっとできるに違いない」と思えるかどうか。未来は誰にも分からないけど、楽天的に「なんとかなる」と思っていればこそ、挑戦しよう、頑張ろうという気になるじゃないですか。

二葉:確かに。理由もなく楽天家でよかったです。

金丸:だけど、修業中は、お給料は出ないですよね。

二葉:ないです。だからバイトしなきゃいけないけど、師匠の仕事に付いていくとか、いろいろとやることがあるので、融通が利くバイト先を師匠から紹介してもらって。

金丸:でも入門した当初って、髪はアフロでしょ。

二葉:そうなんですよ。最初は日本料理屋に面接に行きました。「アフロで採ってくれるわけないやろなぁ」と思って行ったら、やっぱりアカンかって。そのあと紹介されたコンビニも髪型でダメ。「師匠、あきませんでした」って言ったら、「人を見た目で判断するとは」って怒らはって。

金丸:落語みたいなやり取りですね(笑)。

二葉:私のせいにするんじゃなくて、怒ってくれて嬉しかったですけど、「師匠、世間ってこんなもんなんですよ。人って割と見た目ですよ」と思いながら。

金丸:真面目な人だし、二葉さんが「面倒を見てくれそう」と感じたのも納得しました。それで、3年の修業期間が終わったあとは?

二葉:師匠のお家に通うのは終わって、自分で会をやりはじめました。

金丸:寄席の会場は自分で借りるんですか?

二葉:そうです。チラシも自分で作って、メールの問い合わせとかも自分で。

金丸:そういう地道な活動をする一方で、賞レースにも参加されて。NHK新人落語大賞にも、何度か参加されたんですよね?

二葉:5回くらい出てます。優勝の前の年も決勝まで行けたんですけど、審査員にボロカス言われてしもて……。

金丸:どんなことを言われたんですか?

二葉:「もっとネタ数増やさないと」って。言われんでも分かっとんねん、無い中で勝負しとんねん、と思いながら。

金丸:図星ではあったと。審査員もさすがですね。

二葉:それが悔しくて。その年は賞の性質とか、審査員の好みとか研究してたんです。結果、ブレブレで、自分の落語ができなかった。それで吹っ切れて、「審査員に評価されてたまるか。もう1位かベベ(最下位)や」と挑んだら優勝。入門からちょうど10年でした。

金丸:二葉さんの素で勝負して優勝。しかも、5人の審査員全員が満点をつけたんですよね。

二葉:漢字の小テストでも満点取ったことがなくて、人生で初めての満点がこれ。母がえらい褒めてくれました。

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