― やっぱり、痺れるな…光江さんにも、ミチさんにも。
明美から聞かされた光江との出会いの話が、想像より随分とドラマチックだったことに驚きながらも、ともみは今、光江と、そしてミチと共に働けている自分の幸運に改めて感謝した。
「光江さんに、もう二度と1人であの店に近づかないように約束させられました。力のない人間のそれは、勇気ではなくただの無謀だし、大迷惑だからと。それから3日後にもう一度来るように、と。それで3日後に、光江さんと一緒にルビーの店に行きました。そこからはもう、あっという間の出来事で、今でも何が起こったのかって感じなんです」
明美と一緒に“4階のキャバクラ”に乗り込んだ光江は、勤務中だったルビーを連れ出し、その後、店ごと潰してしまったという。どうやらそのビルに入っていた全ての店の経営者は同じだったようで、警察が乗り込み違法行為が次々と摘発され、最終的にはそのビルごと解体されたらしい。
「店を出る時、ルビーは、随分暴れたんじゃないですか?」
ええ、そりゃぁもう、と明美は懐かしそうに、ほんの少しだけ笑った。
「お酒のボトルとか、自分のはいていた靴とか、何もかもを投げまくって抵抗するし、私にも光江さんにも、クソババア!の連発で。絶対にアンタたちにはついて行かないと叫んでいたんですけど、最終的には、軽々とミチさんに担がれちゃって。そのまま連行されちゃいました」
軽々と担ぐには、ルビーの体はボリューミー過ぎる気がするけれど、ミチならばなんとかするのだろうと容易に想像できて、ともみにも笑みが浮かんだ。
そこからルビーは、光江の元で“健全”に働くことになった。光江の家に住み込み、家事を徹底的にたたき込まれ、BAR・Sneetの雑用係としても雇われ、22時以降は帰宅という日々が、18歳までは続いた。
「私ももう一度……一緒に暮らしてくれないかな、とお願いしてみたんです。それがイヤなら生活資金を援助させて欲しいと伝えたんですけど、ダメでしたね。アンタに援助されるくらいなら、また逃げるって。
だから、光江さんが…というより、ミチさんが、時々ルビーちゃんの写真を撮って私に送ってくれていたんです。ルビーちゃんが光江さんのところを出て、1人暮らしを始めてからも、電話番号はもちろん、住所も教えてもらえなかったから、私は手紙やプレゼントをSneetに送らせてもらっていました。
受け取ってくれているかはわからないんですけどね、と、明美は続けた。
「実は何年か前にこっそり、あの子のポールダンスのショーを見に行ったことがあるんです。その時もミチさんが、見つからないように一番後ろの席を手配してくれました。キラキラしてて、とてもカッコよくて、眩しくて。私、バカみたいに泣けてきちゃって」
もどかしい、と、ともみは胸をかきむしりたい気持ちになった。確かにルビーが明美を恨むのは仕方がない。母親だと認めたくないのもわかる。ただ…一度間違えたらもう、二度と許してもらえないのだろうか。
PTSDを抱えた明美が、なんとかやりなおそうとした精一杯が、確かに存在しているのに。







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