基本的には碁盤の目状に広がる銀座の街。そこには中央通りや並木通りなど、誰もが知る華やかな道が数多くあるが、密かに共存するのが細い路地だ。
幾度の区画整理があってもなお残る昔からの道であり、ミステリアスな気配に吸い込まれて歩けば、並ぶ店は軒並みディープ。
ここを制してこそ、真の“銀座ツウ”だ。
今回は、高級街の迷路【金春小路】とコリドーの裏路地を紹介する。
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夜の始まり、着物にバーキンを持った美女が闊歩する金春通り。中央通りから1本入っただけにして、その艶やかさはぐっと上がる。江戸時代、金春流の能役者がこの辺りに屋敷を構えたことが、名前の由来だ。
「金春湯」という銭湯があることでも知られるが、その隣に延びる「金春小路」は見逃されがち。
明治期からの歴史をもつ由緒ある道だが、なにせ人ひとりがやっと通れるほどの本当に細い小径なのだ。だから、すでに道を知って先頭を進む人に「ちょっとどこ行くの!?」なんて言葉がかけられるシーンもちらほら。
不安だが道の先には『あるぷ』の文字。そのバーの明かりを頼りに進むと、左にさらに小径が続く。しかし、先はより細く暗く、もはや道かも謎。進むうちに携帯の電波も減ってくる。
いったん『あるぷ』の扉を開け、休憩がてらママや常連紳士に話を聞くもあり。探索を再開すると、金春通り沿いに店を構える『久兵衛 本店』の職人とすれ違う。ニッチな小径にしてやはり銀座。
やがて、右に見番通りの明かりが見える。現実世界に帰ってきた気分になるが、つい金春小路への再訪に駆られるのは、この裏路地の歴史や物語の奥深さを自然と感じるからかもしれない。
1.ママに思わず「ただいま」と言いたくなる“銀座のオアシス”
『あるぷ』
『あるぷ』のネオン看板脇の扉を開けると、ヨーロッパの装飾が施されたバーカウンターがお目見え。
1976年開業のバーで、ママの筒井喜和子さんは1996年から店に立つ。
例えば漬物や皮をむいた柿を出してくれるなどのママの気遣いに、帰郷したような懐かしさが募る店だ。
2.軽やかな食感が愉快な揚げの技と妙に陶酔する
『銀座 天あさ』
『銀座 天あさ』は、見番通りではなく、金春小路に正面入り口がある秘密基地めいた店で、小体ながら天ぷらは本格そのもの。
ハゼに甘鯛、茸や栗、根菜など秋の味覚は秘伝の油で揚げられており、どれも衣の軽さが秀逸。
サクッと軽やかで瑞々しく素材を存分に味わえる。
季節ごとに通い、旬味を満喫したい。
鉄道の走行音がかすかに響く、コリドー街から一本中に入った泰明通り。泰明通りの時点で既にディープな銀座の空気が漂っているが、泰明ビルの角から数寄屋通りに抜ける裏路地がまた大人の好奇心を刺激する。
排水管から延々聴こえる水音を耳に前へ進んでいくと、路地の右側に呑ん兵衛の楽園とばかりに小体の店がひしめき合う。
集合看板には、「カレー 小料理」「洋酒の店」などそれぞれの店を表す枕詞が記され、『小さなくらのすけ』では「秋刀魚 刺身 or 塩焼き」とそそられる文言が。空腹で訪れても、胃袋が満たされる小路である。
また、意外な見どころは、古いビルらしい太い配管だ。頭上を見ると昭和を思わせる旧型の太い配管が空に伸び、ノスタルジックさに胸が高鳴る。配管の下にステンドグラスの窓を持つ店も。
多くの店から漏れる笑い声が入店の呼び水。直感で扉を開け、席がなければ別の店へ。旅に出た気分でハシゴをして数寄屋通りに出る。
たった20mほどの裏路地を、数時間をかけ、ゆっくりと抜け切るのがオツなのだ。
3.銀座らしからぬ価格と雰囲気に心躍る酒場
『小さなくらのすけ』
仕事終わりの一杯を求めてやってくるサラリーマンが、後を絶たない。
ごぼうの唐揚げといった定番に加え、女将・佐藤 遼さんの郷里・長崎の味をベースにした料理がそろう。
その旨さにも唸るが、驚くべきは銀座離れした価格とアットホームな雰囲気。
毎週通う常連が多くいるのも頷ける。
4.若き大将の丁寧な仕事で四季の滋味を味わう至福
『わ道行』
店名は、日本の“和”、人の“輪”、そして“我”の道を行くという意味が込められ、『わ道行』と命名。
店主・駒井翔一さんは「百の名店より裏名店」をモットーに、7席のみの店で心を込めて腕を振るう。
旬の味を大切に仕上げた料理たちは、どれも見目美しい美味ぞろい。
33歳という若き店主の未来に期待せずにはいられない。
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