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そして、また春が来た。
私は会社終わり、原宿駅に入る前に代々木公園に立ち寄る。桜は、4月の頭なのにもう葉っぱが目立っている。
そんな今日、私は同期の誰よりも先に31歳になった。
ダンス部のみんなや、前にいた会社のメンバーから「おめでとう」の連絡が続き、気分が満たされる。
― 今年の誕生日は、落ち着いた気分だな。去年は30歳という数字にすごく焦ったけれど。
不思議なことに、去年のほうが結婚への焦りを感じていたように思う。今年はただ1つ年齢が増えただけ、それ以上でも以下でもないというような感覚だった。
思えばこの一年。
結婚というものに突然執着心を覚え、アプリや結婚相談所でもがいてみても進展はなく…。そんなときに現れた蒼人と、迷いながら付き合いはじめた。
蒼人は、温かくて、かっこよくて、素敵な人だった。
なのに私は「結婚」というフィルターを通してしか彼と向き合えず、不満を垂れ流した。
なぜ、私の焦りをわかってくれないの。本当に大切に思ってるなら、寄り添ってくれてもいいのに。そんな不満ばかり。
「なんか、恥ずかしかったな。蒼人といたときの私」
過去を清算してしまいたい。そんなふうに思ったとき、スマホがふるえた。
『蒼人:誕生日おめでとう。今度、どこかで会えない?』
蒼人とは別れた直後も、同棲解消に関する事務的なやりとりをしていた。また、転職を決めたときも、人事部の彼はすぐに連絡をくれた。
気まずい雰囲気はなく、フラットな関係に戻った気でいたが――。蒼人から「会いたい」と言われて、少し息があがる。
代々木公園は夜なのに人通りが多く、ランニングしている人や、犬の散歩をしている人。ダンスの練習をしている人などがいた。いろんな人をぼうっと眺めたあと、私は蒼人にメッセージを送った。
『菜穂:私も、ちょっと話したい。来週新橋で会おうか』
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