東京・田園調布にある焼鳥店『鳥鍈(とりえい)』。この地で半世紀以上暖簾を守り続けてきた名店には、“ミスター”こと長嶋茂雄氏の温かな記憶が今も息づいている。
煮込みにじゃがいもを加えたのは、長嶋氏の一言からだった――。
昭和の面影を残す老舗のカウンターで交わされた会話と、その“おでん”の味。地域に根ざした名店とともに、街と人との深いつながりを振り返る。
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屋台からスタートし、この街を代表する人気店に
田園調布駅東口を出てすぐ目の前に暖簾を掲げる、『鳥鍈』の2代目店主・小野田幸雄さんは生まれも育ちも田園調布。
街の移り変わりを肌で感じながら、半世紀以上この地で生きる。小野田さんの父である先代は、田園調布駅前で屋台を引くところから店を始めた。
「親父は女性や子どもが安心して食べられる屋台にしたかったんだって。いわゆる焼き鳥じゃなく、もも焼きと手羽焼きだけっていうのも珍しくて他の店より繁盛したみたい」
田園調布駅前に屋台を出していたというだけでも驚きだが、幸雄さんは「高級住宅街なのは駅の反対側、アッパーサイドよ。こっち側はダウンタウンって小さい頃は戯言を言っていたなあ(笑)」と語る。
そのアッパーサイドの中でも特に3丁目、4丁目は田園調布きっての高級エリア。政財界の大物から銀幕のスター、野球界のビッグネームまでもが立派な邸宅を構えていることで知られる。
店の常連でもある“ミスター”こと、長嶋茂雄氏もそのひとり。
「多摩川のグラウンドで練習していたチームにスープを差し入れたのが最初の接点かな。そのあとにまず柴田 勲さんが店に来てくれて、それから結婚して田園調布に住むようになった長嶋さんも来てくれるようになったんだよ」
「特別扱いは一切なし。誰もが並列」が店の信条
きっぷがよく豪快な性格で、誰に対しても態度を変えない先代とミスターはすぐに意気投合。多いときは毎日顔を出し、親交を深めたという。幸雄さんも大いに可愛がられた。
「うちの名物のひとつ、煮込みがいまの形になったのは長嶋さんが理由。長嶋さん、なぜだか煮込みのことを“おでん”って言うんだよね。で“おでんなのに、ジャガイモが入ってない”って(笑)。
でもリクエストどおりに入れてみたら、とろみが出て美味しくなってね。だからうちの煮込みは子どもたちからも大人気なのよ」
ミスターは他の客と並んでカウンターに座り、先代や幸雄さんとおしゃべりをして寛ぐのが常だそう。
「歴代の総理大臣は4人来たけど、そのときだけSPには外に出てもらった。“この街は治安がいいから大丈夫”なんて言ってね。うちは『鍈輝』みたいに予約を取らないといけない店じゃないから、来てくれた人は誰でもギュウギュウに入れちゃうの」
そう、実は幸雄さんの長男は恵比寿の予約困難店『鍈輝』の大将、小野田幸平さん。
「よく店のスタッフを連れて帰ってくるよ。“ソウルフードはうちのもも焼きだ”って言ってくれてる。あいつでも、この味は出せないんだってさ」
この店を求め、田園調布で下車する常連あり
町内で7回引っ越しを繰り返しいまもここに住む幸雄さん。彼から見た現在の田園調布はどうなのだろうか。
「人が入れ替わってきているよね。結局、固定資産税を払えなくて出ていく人も多いから。若いお金持ちは面倒なのかな?
日本で唯一、法人化された自治体があるの。住むにしろ、建てるにしろ、いろんな規制があるからね。昼間、仕込み中に外を見ると、ご年配の方が多くなったと感じるよ。コロナ禍以降、21時には誰も歩いてないしね。
それでも遠方から、わざわざうちの店を目当てに田園調布で降りてくれるお客さんがいるのは、ありがたいことだよ」
住民もよそ者も、成功者も庶民も、変わらず受け入れてくれる『鳥鍈』は、上品な田園調布の街に寄り添う、懐が深い店だった。
フレンドリーな人柄で愛される『鳥鍈』の2代目店主が織りなす粋
店内はカウンター、テーブル、小上がり席がある。
ミスターの定位置は、大将との距離が最も近い“特等席”とされるカウンター席の右から3番目。
ミスターがこれのために足を運んだという一品料理「ピーマン」¥473。
1963年の創業時から名物の「もも焼き」¥1,430。
味付けは塩のみでジューシーな鶏肉の旨みがほとばしる。肉を立てて焼く「3D焼き」が火入れのポイント。
■店舗概要
店名:鳥鍈
住所:大田区田園調布2-50-1
TEL:03-3721-3344
営業時間:17:00~LO22:00
定休日:日曜
席数:カウンター7席、テーブル16席、座敷26席
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