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30歳になりまして Vol.8

「このままだと婚期逃す?」結婚の話をせずに同棲をスタートした30歳女の後悔とは

びっくりして横を見ると、黒髪のベリーショートがよく似合う、スレンダーな女性がほほえんでいる。

おそらく、50歳にいっていないくらい。丁寧な所作と、服装やアクセサリーがとても素敵で、オーラのある美人だ。

「あ…すみません、品のない飲み方で」

恐縮しながら言うと、女性は首を横に振った。

「ううん。若い時を思い出して、元気が出ちゃった。失恋したときとかに、そうやって早く酔いたくてバーに来たことがあったなって」

私は、なんとなく知らない人と話したい気分ではあったので、「実は…」と切り出す。

「さっきまで、高校時代の部活の仲間で女子会をしてたんです。みんな、結婚したり、子どもがいたりして、私だけまだ身が固まってなくて…」

だから30歳になってから特に焦っていること。今の彼は5つ下で、とても好きだが、このままでは婚期を逃す気配しかないこと。それでもいいと思うくらい今が幸せだけれど、ふとしたときに、将来を考えて怖くなることなどを話す。

「へえ、今の子も、30歳だからそろそろ、とか考えるのか。時代が変わって、なーんにも気にしなくなったものかと思ってたわ」

「気にしますよ。とくに、私にとっての部活仲間みたいに、特定のコミュニティで自分だけがみんなと違っていると、すごく気になってしまって」

「なるほどね」

「…もちろん、年齢なんて関係ないとか、結婚がすべてじゃないっていう考えには同意するんです。ただ、自分のこととなると、そうも言ってられないというか」

女性に勧められて、バーボンのロックをもらう。


「それに先週、彼にはっきりと言われたんです。『結婚なんて、まだそんなに真剣に考えたことないから』って。30歳の女性と付き合っていて、結婚はまだ考えていないなんて、無責任だと思いました」

― 初対面の人に話しすぎてる。でも、止まらない。

胸の底にしまっておいたはずの言葉が、お酒のせいか、ポロポロと出てくる。

「でも、そんなことを言って彼を責めるのもお門違いな気がして。25歳と付き合ったなら、すぐには結婚話が出ないのも、想像できていて然るべきだし」

私がため息をつくと、女性は、背中を軽くさすってくれる。

「グルグル考えてしまうのね」

「はい。子どもがほしいので、年齢的にも結婚はそろそろしたいんです。でも、彼との未来があるなら、もし子どもができるタイミングを逃しても、それもいいかなって思ったりして。感情が矛盾してます」

私は「すみません、いきなりこんなベラベラしゃべって」と頭を下げた。

「いえいえ。年齢のことは、気になるわよね。私もそうだったからわかるわ」

「お恥ずかしいです。年齢にこだわるなんて本当は嫌なんですけど、焦ってばかりで」

「あら、年齢にこだわるのは、悪いことじゃないのよ」

「そうですか?」

「年齢にこだわって動いた結果、幸せになった人を私はたくさん知っている」

女性はグラスを傾けてお酒を飲み干すと、マスターを呼び、私の分までお会計をしてくれた。

そして最後に、こう言う。

「結婚するか、しないか、どっちに転んでも、大丈夫よ」

「え?」

「どんな道を進んでも、それなり幸せで、でも時々選ばなかったほうをないものねだりをする。そんな人生が待ってるものよ。

だけど一つ言えるのは、大事な人に本音を話すこと。そして、一緒に考えを深めること。後悔だけは残さずね」

女性は、私の肩をポンポンと叩き、去っていった。

― そっか。蒼人に、このまとまらない本音をぶつけてみよう。

そう考えながら、私はもう少し飲みたくなって、メニューを開く。

そのとき、横から強い視線を感じて、私は顔を上げた。

制服を着た男性スタッフが、こちらをじっと見ていた気がする。しかし男性は、顔をすぐにそむけ、くるりと振り返ってどこかへ行ってしまった。


▶前回:「婚期を逃しそう…」5歳下の彼に、結婚話ができない30歳女の切実な悩み

▶1話目はこちら:「時短で働く女性が正直羨ましい…」独身バリキャリ女のモヤモヤ

▶NEXT:7月2日 水曜更新予定
菜穂をじっと見ていた男性スタッフ。その理由とは?

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この記事へのコメント

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No Name
そう、その通りなのよ。菜穂は本音を言わな過ぎ。もう読んでてイライラする。似たような人たまにいるけど最後には信用を失うね。腹の内を明かさないのにモヤモヤ抱えて最後にブチ切れるとかたまったもんじゃない。
2025/06/25 05:1817
No Name
大した進展もなく...
もう少しテンポよく話を進めて欲しい。第一、タイトルが先週とほぼ同じ(若干表現は違っても意味合いは酷似)ww ガン見してきた男は幼馴染みかなんか?
2025/06/25 05:3813
No Name
「急がずじっくり相手を決めたい」対して「そっか」だけで黙ってくれたのに、皆の何か言いたそうな顔に私は悔しくなり付け加える
気強いな、この女。
2025/06/25 05:5612
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30歳になりまして

「30歳」

その数字は、女性の心に妙に重くのしかかる。

「年齢なんてただの数字」と本人は思っていても、世間がそれを許してくれない。

職場では、つい最近まで若手だったはずなのに、いつのまにか中堅どころになっている。

マッチングアプリだって自動的に30歳になった途端に「いいね」が減った気がする。

気持ちは追いついていないのに、30歳という年齢の重みがが急にのしかかる。

大手IT企業のマーケティング部で、課長職を担う桜庭菜穂は、30歳になって迷いが生じ始めた…。

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