男という生き物は、一体いつから大人になるのだろうか?
32歳、45歳、52歳──。
いくつになっても少年のように人生を楽しみ尽くせるようになったときこそ、男は本当の意味で“大人”になるのかもしれない。
これは、人生の悲しみや喜び、様々な気づきを得るターニングポイントになる年齢…
32歳、45歳、52歳の男たちを主人公にした、人生を味わうための物語。
▶前回:「バツイチ」は武器になる。離婚して10年、45歳広告代理店男のプライベートとは
Vol.3 麻布十番のパーティー
会社経営者の52歳、後藤祐一の場合
東麻布の中華『紫玉蘭』の2階の長方形のホールは、60人の人々で賑わっていた。
貸切の立食パーティー。行き交う人々みんなと挨拶を交わす僕には、洗練された美味しい中華料理を味わう暇もない。
だけどそれは、僕にとってはこの上なく心地よい慌ただしさなのだった。
「後藤さん、点心めちゃくちゃ美味しいです」
「後藤社長、ちゃんと召し上がってますか?」
そんな声をかけてくれる人々は皆、僕の会社の大切な従業員だ。
そう。今夜は、会社設立15周年を記念するパーティー。騒がしいほどの賑わいや盛り上がりは、僕にとっては心地よい極上の音楽に他ならない。
― 15年前に会社を作った時には、社員はたったの5人しかいなかったのになぁ…。
不動産コンサル業を始めるため、15年前、この店の一番小さな個室で開催した決起集会。
そこから少しずつ仲間を集め、ついにメインのホールを貸し切るところまで来た。
しみじみとした喜びを噛み締めながらも僕は、壁際に数脚設けられた椅子に密かに腰を下ろす。
長い立食パーティーに軽く足腰の疲れを感じたこともあるけれど、少しだけ1人になって、この喜びに浸りたかったのだ。
― 会社は15歳。そして僕は、いつのまにかもう52歳か…。
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