男という生き物は、一体いつから大人になるのだろうか?
32歳、45歳、52歳──。
いくつになっても少年のように人生を楽しみ尽くせるようになったときこそ、男は本当の意味で“大人”になるのかもしれない。
これは、人生の悲しみや喜び、様々な気づきを得るターニングポイントになる年齢…
32歳、45歳、52歳の男たちを主人公にした、人生を味わうための物語。
▶前回:アプリで出会った女性と2回目のデート。32歳男が帰りに女を家に誘ったら…
Vol.2 馴染みの店にひとりで行くと落ち着くけど…
広告代理店勤務の45歳、大野木志郎の場合
「シローさん、やばいですよ。それ完全にパワハラですからね…」
部下からのつれない返事を思い出して、俺は1人ため息をついた。
「なんだかなぁ。俺があいつの年齢の頃は、上司にはこっちから飲みに連れてってくださいって頼み込んだもんだけどなぁ」
電子タバコの妙に軽い煙と共に、ボヤキを吐き出す。
この10年ですっかり人口密度が低くなってしまった喫煙所には、俺の他には誰もいない。45歳のオッサンの独り言も、言い放題というわけだ。
「10年も経てば、常識も変わるってもんか…」
45歳。
時代の最先端を走っていたつもりだったのに、いつのまにか時代に追い抜かれていたような気分だ。
いくらボタンを押しても点滅しなくなった電子タバコを胸ポケットに入れると、俺は社を出てタクシーに乗り込む。
「銀座まで」
後部座席にもたれながら考える。別に、ウサギとカメのウサギみたいにのんきに昼寝をしていた覚えはない。
新卒で大手広告代理店に入社して23年。その間ずっと、仕事に、飲みに、趣味に、遊びに、全身全霊で挑んでいた。そういう時代だったから。
その結果、誰よりも早く管理職に就くことになったし、仕事にはそれなりのやりがいを感じている。
だけどこうして、ちょっとしたズレを突きつけられる度に感じるのだ。
45歳になった俺は、今でもまだ“現役”でいられているのだろうか───と。
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