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東京エアポケット Vol.27

「LINEブロックされてる?」デートしていた相手と突然音信不通に…。年上男のズルい本音

しばらく歩いていると、少し立ちくらみがした。

時刻は13時過ぎ。朝から何も食べていなかった光里は、ある店にやってきた。

こぢんまりとした小さな町の中華屋で、学生時代に付き合っていた彼氏とよく通った店。

― あの時のままだ…。

店主もメニューも雰囲気もそのまま。中へ入ると、昔よく食べた天津飯を頼んだ。

笠原の件があってから、ずっと食欲がなかった。

笠原のことは、光里が久しぶりに好きになれると思えた相手。

それなのにあんな裏切られ方をして、悔しさと悲しみで胸が締め付けられる。

「はい、お待たせ」


店主の奥さんが、出来立ての天津飯を持ってきた。

少しすくって口に運ぶ。

「美味しい…。あの時のままの味…」

優しい味わいの温かい餡がふわふわの卵と溶け合い、光里の心と体にじんわりと染み渡っていく。

味の記憶が、学生時代の彼氏の記憶を呼び戻した。

同じ大学の1歳上の先輩。

バスケサークルだった彼とは、友人を通していつの間にか仲良くなり付き合った。

この店を教えてくれたのがその先輩。

友達といる時は男子高校生のように無邪気で、でもたまに見せる男気や、優しい包容力に惹かれた。

光里にとって初めて心から好きになった相手で、春の陽だまりのように温かく美しい恋愛だった。


けれど、光里が先に社会人になり、すれ違いが多くなる。その上、先輩が海外の博士課程に行くと日本を離れた。

それでも好きで関係を続けたが、先輩の帰国は未定だったし、自分も仕事が忙しくなり、将来が見えずに結局別れた。

それからずっと光里は、仕事に集中してきた。

恋愛はいつか壊れるかもしれない。けれどきっと努力は裏切らないと信じて。

それなのに…。

光里は急に先輩が恋しくなった。

大好きだった人に、大事にしてもらった記憶が次々と蘇る。

別れてからは、どこか頑なだった。

別れてまで選んだ今の仕事で成功しなければいつか後悔する。そんな気持ちもあった。

「先輩、今どうしているんだろう…?」

ずっと見まいとしていた先輩のSNSを探してみる。友人のフォローを辿っていくと、意外と簡単に探し当てた。

― 先輩だ!あの頃のまま…ううん、もっとかっこよくなってる…!

写真をあまり載せるタイプではなく、先輩の顔写真が載っているのは、最近友人たちと集まった時の一枚だけ。

帰国しているのか、結婚しているのか、それすらもわからない。

光里は思わずDMボタンを推して、メッセージを書く。

「お久しぶりです、光里です。元気…」

そこまで書いて光里は指を止める。少し考え、すべて削除した。

― 連絡するのは、今じゃない。

残っていた天津飯を丁寧に平らげると、支払いを済ませて店を出た。

先輩と戻りたいとか、そんなことを考えたわけじゃない。

ただ無性に懐かしくなった。

でも、弱っている今連絡をして、昔の大切な思い出を壊したくない。

「よし、もう一度頑張ろう。一から出直そう」

繋がろうと思えば、簡単に繋がれてしまう時代。だからこそ、タイミングは重要だ。

― もし連絡をするときは、もっと自分を誇れるようになってからにしよう。

懐かしい味に心が満たされた光里は、宝物の思い出を胸に、しっかりとした足取りで家へと向かった。


▶前回:結婚式準備でケンカ。ブシュロンの指輪にホテルでの挙式、予算オーバーな30歳女の提案に彼は…

▶1話目はこちら:見栄を張ることに疲れた30歳OL。周囲にひた隠しにしていた“至福のご褒美”とは

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この記事へのコメント

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No Name
えーーーー、これはちょっと光里が可哀想かな。普通にバツイチだと思ったからデートしてただけなのに。笠原はバーで同席してた友人に「離婚して落ち込んでる」と言わせた? 先輩も皆の前で怒鳴るから周囲も何事かと思うし結局先輩が誰かに喋ったから噂が広まったのでは?🥺
それなのにもっと頑張ろうと前向きになれた彼女は立派。
2025/04/30 05:2620
No Name
笠原はしょっ中浮気ばっかりしてるに違いない。奥さんも定期的にスマホチェックしているのかも? 光里のLINE、奥さんがブロック&削除した可能性もあるね。まぁこんな浮気野郎と結婚して大変だろうに、男見る目なかったのか…ご愁傷様だわ。
「一から出直そう」と思えた光里を応援したい!
2025/04/30 06:1816
No Name
どら焼きは うさぎや派? すずめや派?
2025/04/30 06:207
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東京エアポケット

恋に仕事に、友人との付き合い。

キラキラした生活を追い求めて東京で奮闘する女は、ときに疲れ切ってしまうこともある。

すべてから離れてリセットしたいとき。そんな1人の空白時間を、あなたはどう過ごす?

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