恋に仕事に、友人との付き合い。
キラキラした生活を追い求めて東京で奮闘する女は、ときに疲れ切ってしまうこともある。
すべてから離れてリセットしたいとき。そんな1人の空白時間を、あなたはどう過ごす?
▶前回:結婚式準備でケンカ。ブシュロンの指輪にホテルでの挙式、予算オーバーな30歳女の提案に彼は…
不毛な恋/松坂光里(28歳)「早稲田・町中華」
「おい、松坂。お前一体何したんだよ!」
外出先から帰ってきた途端、松坂光里は同じ部署の先輩からいきなり怒声とも取れる激しい口調で言われた。
光里は早稲田大学卒業後、大手広告代理店に就職して6年目の28歳だ。
がむしゃらに働き周りからの評価を得られ、今回初めて大きなプロジェクトのリーダーを任された。
仕事は順調にいっていたのだが…。
「なんですか?急に…」
「お前、何も聞いてないのか!?」
「え、何を…」
すると、先輩の後ろから険しい顔をした部長が戻ってきた。
光里の方を見るなり、「松坂、ちょっと」と会議室へ促される。
何のことかと、光里は頭を高速回転させながら、部長の後を追った。
「今回のプロジェクト、松坂には降りてもらう」
「え、どうしてですか!?」
「先方からの要望だ」
「私、何か失礼なことをしてしまったのでしょうか…?」
全く身に覚えがなく、突然のことにパニックになる。すると部長は、ポケットから一枚の名刺を出した。
その名前を見て、光里はドキッとした。
そこには、大手芸能事務所名と、“マネージメント部 部長 笠原ゆうか”と書かれている。
今回光里が手がけるプロジェクトの新CMに起用予定だった、若手俳優の事務所だ。
「この名前に、見覚えはない?」
「もしかしてこの方の旦那さま、映像プロデューサーの…」
「ああ、笠原啓太の奥様だ」
光里は頭の中が真っ白になる。そして、3ヶ月前に封印したはずの笠原との思い出が、一気に脳裏に蘇った。
14歳上の笠原と出会ったのは3年前。仕事で行った撮影現場に彼はいた。
プロデューサーと聞くと怖いイメージがあったが、笠原は物腰が柔らかく丁寧で、部下からも信頼されているのが見てとれた。
新人に毛が生えた程度の光里にも、目を合わせてきちんと挨拶をしてくれ、とても好印象だった。
それから数回仕事で会う程度だったが、約7ヶ月前に、たまたま入ったバーで一緒になったのだ。
この記事へのコメント
それなのにもっと頑張ろうと前向きになれた彼女は立派。
「一から出直そう」と思えた光里を応援したい!