2025.01.27
1LDKの彼方 Vol.6「たしか、亮太郎さん…でしたよね?私と同い年?あれ、ひとつ年上か!ねえねえ、お姉ちゃんと付き合うのって大変じゃないですか?」
「ちょっと歌織…」
明るく天真爛漫に話しかけてくる歌織ちゃんに、明里はタジタジな様子だった。
「亮太郎くん、実はね。歌織は読者モデル?とかそういうのをやっている女優志望で。よかったら、機会があったら声かけてやってくれよ」
「あら、そうよ!歌織ちゃん、亮太郎さんにお仕事紹介してもらえばいいじゃない」
「ねえ、お父さんも。お母さんまで…」
困った表情を浮かべる明里を置いて、どんどんと話が進んでいく。その流れで歌織ちゃんと俺はLINEを交換し、そうして会はお開きとなったのだ。
「じゃあね、亮太郎さん。明里は難しいところもあると思うけど、亮太郎さんみたいないい人が付き合ってくださるなら安心だわ。よろしくおねがいしますね」
お母さんにそう送り出されたあと、俺と明里は渋谷までゆっくりと歩いた。
思いのほかフランクで楽しい時間だったことに安堵した俺は、明里に感想を伝える。
「なんか、明里がご家族のことあんまり得意じゃないっていうからどんな人かと思ってたけど、いい人たちじゃん」
けれど明里は、疲れきったような、冷めたような視線で返すのだった。
「そう見せてるだけだよ。対面と歌織が大事なだけなの」
「え…?」
「とにかく、今日はありがとう!これで一緒に暮らす時に『どこの誰ともわからない人と一緒に住むなんて』とは言われないと思うから。あとはもう、あんまり関わらなくていいからね」
そう言う明里の声が妙に冷たく硬く感じて、俺たちはその後、取り留めのない雑談に戻った。
◆
そんな経緯があったあとの、今日。
代役のモデルとして歌織ちゃんにきてもらったことが、こんなに明里の癇に障るとは───正直、予想の範疇を超えていた。
「歌織って、私の妹の?あの歌織のこと言ってる?」
「え…うん」
せっかくの一年記念日だというのに、明里の顔からはすっかり笑顔が消えてしまった。俺は思わず焦って言葉を続ける。
「いや、ごめん。明里が歌織ちゃんとあんまり仲良くないっていうのは確かに聞いてたけど、正直そんなに悪い子だと思わなかったよ。
そのスリッパも、『お姉ちゃんに似合うと思う』って、歌織ちゃんが後押ししてくれたんだ。明里が家を出てからあまり話せなくなって寂しいとも言ってたよ」
本当のことだった。
急遽代役として立ってくれた歌織ちゃんは、一生懸命撮影にのぞんでくれたいい子だったのだ。
「お姉ちゃん、家を出てから全然話す機会もなくなっちゃって…私、寂しくて…。
亮太郎さんよかったら、私がお姉ちゃんと仲直りできるように、時々相談に乗ってもらえませんか?」
そんなふうに悩んでいた歌織ちゃんが、健気にすら感じる。俺が間に立つことで2人が仲直りできるのなら、できることはしたいと感じた。
だけど…。
「ごめん。私、今日は1人で寝てもいいかな。ちょっと気分悪くて」
そういうや否や明里は1人で寝室へと向かい、ドアを固く閉ざしてしまった。
明里は、怒った時も決して声を荒らげたりしない。1人で静かに過ごすだけ。つまり今俺は、明里を怒らせてしまったのだ。
「明里…ごめん」
リビングからそう声をかけてみるものの、ドアの向こうの明里に聞こえているのかどうかわからない。
俺の足元には、買い取ってきたEMUのスリッパが、寂しく出番を待っていた。
手持ち無沙汰になった俺は、何げなくスマホを取り出す。
スケジュールアプリに記された「一年記念日」の文字が、今夜ソファで寝る俺のことを嘲笑っているように感じた。
▶前回:「何これ…」付き合って1年記念日。27歳彼氏からのプレゼントに、女が絶句したワケ
▶1話目はこちら:恵比寿で彼と同棲を始めた29歳女。結婚へのカウントダウンと意気込んでいたら
▶Next:2月3日 月曜更新予定
珍しく、亮太郎に怒りを隠せなかった明里。次第に2人の生活は歪んでいき…
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