運命なんて、今さら Vol.3

1ヶ月前に別れた元カレにありえない「お願いごと」をされ…。28歳女が困惑した理由

「いえ。僕は、結海さんの話を聞きに来ました」

そこで寿人は、結海の本業についても聞いてみた。結海は、紅茶を飲みながら、にっこりと穏やかに話す。

「私は新卒からずっと、バックオフィス向けITサービスの会社にいます。営業の仕事は、楽しいです」

「ただ…」と結海は言う。

「入社6年目の自分に、しわ寄せがすべて来ているんです」

昨年10月に、中途の若手が2人揃ってやめてしまった。やりがいはあるものの、営業ノルマが大変で、上司の圧がキツい。

明るい表情を崩さずにそう話す結海を見て、寿人は思う。

― 6年目ってことは、28歳くらいか。若いのにそんなに働いて、えらいな。

寿人にも、馬車馬のように働いた時期があった。

今は税理士として独立し、青山に事務所を構えて3年。なんとかワークライフバランスを保ったまま稼げているが、結海のことを他人事とは思えない。

「…結海さん、無理は禁物です。ちゃんとリフレッシュしたほうがいいです」

自分が、癒やしや楽しみを渡せたらいいのだけれど。そう思った寿人だったが、そんなことを言う勇気は、持ち合わせていない。

代わりに結海に、近場でおすすめのキャンプサイトを教えた。

― 本当は、「一緒に行きませんか」と誘いたいけど…。

「お客様、そろそろ閉店時間になります」

店員が伝票を持ってやってくる。寿人は、結海の静止を押し切って支払いを済ませた。


21時過ぎの渋谷は、思ったより静かで、刺すような寒さだった。

「寿人さん、ごちそうさまでした。楽しかった〜ありがとうございました」

「こちらこそ、忙しいのに来てくれて、うれしかったです」

リラックスした雰囲気の中、寿人は、結海を改めて誘おうと勇気を振り絞る。

「…あの、結海さん」

「はい」

「今度また、ゆっくり会えたりしませんか?」

すると、結海は立ち止まる。

「はい。ただ…」

結海の笑顔が消えた。

「私…実は今、元カレと別れたばかりで、うまく終われてなくて」

うつむく結海の背後で、イルミネーションが巻かれた木が、寒そうに揺れている。

《結海SIDE》


「結海〜。聞いてる〜?」

木曜の仕事終わり。結海は、用賀駅のホームを歩きながら電話をしている。

耳に響くのは、元カレ・研哉の声だ。

「今週どっかで、夜時間作れない?お願い。いいよな?」

― ああ、もう…。別れているのに。

この記事へのコメント

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No Name
金柑のジャム作ったからどうしても俺に食べさせたいんだって

じゃお前が行って食えばいいだろが。苦手でも行け!
2025/01/22 05:2228
No Name
なんか、結海って面倒くさい人かも?!別に嫌いとかではなけどどうもいい子ぶってて好感度低い登場人物だなと。別れてるのに何故しょっ中連絡してくる元カレの言いなりなってるのかも意味不明。萎縮するほどのモラハラ男だったなら、もう研哉のSNSもLINEもブロックすればいい。
2025/01/22 05:1925
No Name
結海は押しに弱いのかね?
実家の手伝いも営業のノルマも元カレのお願いも何でも引き受ける。
2025/01/22 06:0816
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