運命なんて、今さら Vol.2

28歳女性と初デート。待ち合わせ場所に現れた女の服装をみて、男が息をのんだワケ

袋の中には、ハーフサイズのフランスパンと、5,000円札が入っていた。

メモには、こう書かれている。

『寿人さん

昨日は、本当にありがとうございました。
そして、ご迷惑をおかけしました。

朝食用に持ってきていたバゲットを、お裾分けします。
実家のパン屋の人気商品です。
今日は開店から手伝いにいかなければならず、お先に失礼します』

― お金なんて…受け取れないよ。

また会って、話したかった。寿人は、さみしさに目を伏せた。


「…楽しそうだな、寿人。で、その子の実家のパン屋さん、なんて名前?」

寿人は、キャンプの後片付けをしながら、ハンズフリー通話をしている。

相手は、大手保険会社で営業をしている幼なじみの三郎・通称サブちゃんだ。

サブちゃんは、いつも天真爛漫で明るい。

声だけで、ラグビーで鍛えた大きな体を揺らして笑っている姿が、容易に想起される。

「…パン屋さんの名前?なんでサブちゃんに教えなきゃなんないの?」

「お前の久々の片思い相手だろ?今日店頭にいるんなら、行ってその子の顔を拝もうかなって」

「やめろって。…別に片思い相手じゃないし」

「嘘つけ、声がうわずっててバレバレ。一晩で相当仲良くなったんだな」

サブちゃんがニヤニヤしているのが、寿人にはわかる。

「…ねえ、サブちゃん。真剣な話、彼女…結海さんと、また会える可能性はあるのかな」

「そんなの、お前次第だろ。LINE知ってるなら連絡すればいいじゃん」

「…なんて送ったら、変じゃないと思う?」

サブちゃんは、大学時代から10年近く、彼女・ミチと付き合っている。3年ほど同棲もしていて、寿人にとっては恋愛の大先輩だ。

「うーん。たとえば『すんごい楽しかったから、また会いたい』とか?」

「…そんな直球な」

「寿人。キメるところでキメないと、ぼんやりした歯ごたえのない人生が出来上がるぞ」

そして、サブちゃんは、ほとんど息のような小声で言った。

「俺は、再来週キメるから」

「へ?」

「ミチにプロポーズするんだよ。沖縄のリッツ・カールトンで、超華やかに。だから寿人も頑張れよ」

「じゃ!」と、電話を切られてしまう。

小学生の頃一緒にわんぱくをしていたサブちゃんは、人生のステージをまたひとつ進めるという。

テントを畳んで収納袋にしまい込みながら、寿人は置いてけぼりをくらった気分になった。

《結海SIDE》


「疲れた〜」

パンプスを脱いだ足先が、ジンジンしている。用賀の自宅マンションの玄関で、結海は小さくため息をついた。

勤務しているIT企業は、今提案ラッシュだ。結海は今日、4件のクライアントをまわり、その後、渋谷のオフィスに戻ってお礼のメールや資料送付をした。

28歳、新卒で入社して6年目。

任される業務が増え、仕事は年々ハードになっている。

― もう21時半か。月曜からこんなハードだとは。…さあ、ゴハン ゴハン!

この記事へのコメント

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No Name
冷凍であっても帰ってすぐ温めればビーフピラフとポトフを食べられるのは、忙しい独身女子にとって便利だね。
「チン!」という派手な音のレンジ使ってるのもいい😂 でも彼氏持ち? 応援したい気持ちが失せたわw
2025/01/15 06:1213
No Name
何だよお茶だけって....つまんないなぁ結海!
研哉って? 遠距離中の彼氏がいるとかなのかな。
2025/01/15 05:229返信1件
No Name
フツーお金、置いてくかなぁ?
なんか違和感を感じたけど…
2025/01/15 06:028
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