1LDKの彼方 Vol.2

年上彼女から「ボッテガのキーケース」をプレゼントされた28歳男が、困惑したワケ

◆前回までのあらすじ

ベンチャー企業を経営する明里は、30歳を目前にして、2歳年下の彼氏・亮太郎と同棲を始める。

引っ越し当日のクリスマス。なんのデートプランも練っていなかった亮太郎に、明里は小さな違和感を抱き…。

▶前回:彼と初めて過ごすクリスマス。期待していた29歳女ががっかりしたワケ


Vol.2 クリスマス<亮太郎>


― ちゃんと、話すんだ。

ダイニングテーブルに座った明里が、俺の顔をまっすぐに見つめている。

明治通りに面した広い窓から、差し込む陽の光。その光を浴びて穏やかな表情を浮かべる明里のことを俺は、ハッとするほど綺麗だと思った。

だけど、なぜだろう。こうも思わずにはいられない。

― 明里が、遠い。

無言の空気に促されるままに、俺もダイニングテーブルの明里の向かいに腰掛ける。

去年のクリスマスに、すこし遅れた明里へのプレゼントとして購入したこのダイニングテーブルは、たかだか幅80cmといったところだ。繋ごうと思えば、明里の手をとって握り締めることだってできる。

だけど…なぜだかわからないけれど、テーブルの向こうの明里は、はるか彼方にいるように感じる。

近くにいるのに、遠い。

同棲を始める前よりも彼女を遠く感じるのが、不思議だった。一緒に暮らし始めた頃は、こんなふうに感じる時がくるなんて思いもしなかった。

― 話さなきゃ。

ついにその時が来たんだ。そう考えると俺は、緊張のあまり椅子の上で何度も身じろぎせずにはいられない。

C.P. Companyのパンツのポケットのなかで、ティファニーブルーの小さな箱がゴロゴロとその存在を主張していた。

このタイミングだとは思わなかった。だけど、ふたりの思い出が詰まったこの1LDKこそが、“その場”に相応しいのだとも思う。

だから、今日こそは──。

この1年ちょっとの同棲でつのった明里への想いを、余すところなく全力伝えようと決めた。

この記事へのコメント

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No Name
亮太郎目線の話を読むと、彼も明星の事を本当に好きで大事にしようと思っていたのが伝わってきた。これは小さなすれ違いがどんどん大きくなった結果? 彼はプロポーズするつもりで彼女は別れを切り出す所。続きが気になる…
2024/12/30 05:1924返信1件
No Name
最近の連載は表現がおかしくて意味不明だったり読み疲れるものが多かった。でもこのライターさんは喋り口調で飾らないけれど切なさを感じる文体や表現が魅力的!文章も長過ぎずキレイな言葉のチョイスで、片手間で読んでいてもどんどん話に引き込まれていく。
2024/12/30 07:4121返信1件
No Name
亮太郎さんどんなトラウマを抱えているんだろう。 読みながら昔の曲だけどレミオロメンの粉雪が流れてきた人いません?笑
僕は君の全てなど知ってはいないだろう それでも一億人から君を見つけたよ 根拠はないけど本気で思ってるんだ
些細な言い合いもなくて 同じ時間を生きてなどいけない 素直になれないなら喜びも悲しみも虚しいだけ (←ここは明星)
粉雪 ねえ 心まで白く染められたなら 二人の孤独を分け合うこと
ができたのかい
2024/12/30 05:5118返信1件
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