4:金乃竹 仙石原/神奈川
〜誰にも会わない、究極の“ふたりっきり”が叶う宿〜
憧れの部署に異動になったのに無力感だけが募っていく。そんなある日、彼が温泉に行こうと言った。
行き先は学生時代にふたりで初めて旅行した思い出の地、箱根だった。ただ、今更、観光客で溢れ返る場所を無邪気に楽しむ余裕はなかった。
当日、自信満々の彼の車が到着したのは箱根にある「金乃竹 仙石原」。
滞在中に客同士が会うことのないようプライベートを重視した宿は、チェックイン・チェックアウトも部屋ででき、食事も夕食・朝食ともに部屋食だという。
「著名人でも利用できるように、駐車場から直結した客室もあるってさ」
客室は意匠が異なる9室のみで、すべてに情緒ある温泉露天風呂が付いていた。
「すごい。まさに大人の隠れ宿ね」
「頑張ってる君にご褒美だよ」
誰にも邪魔されない完全にふたりだけの、緩やかな時間がそこにはあった。
乳白色の湯に漬かり、互いの日々をねぎらい、窓から見える山々に見とれた。月夜の空を見上げながら、ふたりが出会った頃の話で盛り上がった。
いつしか、彼の隣で肩の力が抜けた私がいた。
「また、ここに来たいな」
「うん。じゃあ今度は、新婚旅行で来る?」
「...え、それって」
翌朝、私たちはまだ人のまばらな仙石原ススキ草原を10年ぶりに手をつないで歩いた。
■施設概要
施設名:金乃竹 仙石原
住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原817-342
TEL:0460-85-9200
URL:https://kinnotake-resorts.com/kinnotake-sengokuhara/
料金:「帝」1泊2名1室1名当たり(朝夕食付き)¥127,600~(税・サ込/入湯税別)
文/安部次郎