2024.10.21
男と女のポテトサラダ論 Vol.12人が出会ったきっかけは、中高一貫女子校時代の友人・愛莉からの紹介だった。
「南帆に合いそうな人がいる」
そうやって紹介されたのが亮平だった。
最初見たときは、なんというか、拍子抜けした。
「自分に合いそう」と言われたので、自分と似た、どちらかと言えば大人しいタイプの人かなと思っていたのだが、目の前にいる亮平は真っ黒に日焼けしてがたいがよく、明るくてよく笑う、自分とはまるで違うタイプだったからだ。
年齢は南帆と同じ34歳。広告代理店で営業をしているという。
でもその日の食事で、彼に嫌な気はしなかった。恋愛としての好きか、と聞かれたらわからないが、友人からの紹介ということもあってか安心感もあり、そのあとデートに誘われたときも快諾した。
初デートは、うなぎ屋だった。ちょうど7月の暑い夏の日で、南帆の好きなうなぎ屋がちょうど2人の家の中間地点だったので、日本酒を飲みながら鰻を食べたのだ。
「蒲焼きと白焼き、どっちが好き?」
「蒲焼きかなぁ。南帆さんはどっちが好きなの?」
「どっちも好きだよ。じゃあ蒲焼きを頼もうか」
「あ、両方頼もうよ。南帆さん、日本酒好きだし、白焼きも食べたいでしょう」
恋愛になると相手のことを考えすぎて、すぐに遠慮してしまう南帆のことをすべてお見通しな気がしてとても驚いた。今考えると、このときに「彼と一緒にいたい」と思ったのだ。
今日運ばれてきた鰻は、南帆の好きな白焼きが多めだった。皮はパリっと、身はふんわりしていて最高に美味しい。日本酒が進む。今日は亮平がいないから、蒲焼きもすべて自分で食べた。
◆
レストランから戻り、布団に飛び込む。スマホはずっと振動していたが、それさえも心地よく聞こえながら、朝までぐっすり寝てしまった。
翌朝、南帆は目覚めた瞬間に不思議な感覚に包まれた。心と体は温泉旅館で十分にリフレッシュしたはずなのに、何かが引っかかっていた。昨夜の出来事が夢のようにぼんやりと頭の中で揺れている。
「昨日の鰻、美味しかったな…」
ぼんやりとしながら、亮平のことを考えた。ふたりの最初のデートで食べた鰻のことを。そして、その亮平が今ここにいないことを。スマホを手に取り、ふと通知を確認すると、亮平からのメッセージが何通も来ている。
「亮平、どうしてるかな…」
南帆はメッセージを開こうとしたが、その手を止め、スマホを机に置いた。昨夜は少しだけ日本酒を飲みすぎたせいかもしれないが、自分が家を飛び出した理由がぼやけて感じられる。そもそも何にそんなにイライラしていたのか、今はもうよくわからない気がした。
「なんでこんなに固執してたんだろう…」
何かを急いで証明したり、作ったりしなくてもいいのかもしれない、という考えがふと浮かんできた。
結婚や家事が自分を悩ませていた理由も、今ならもっと冷静に理解できる。南帆がずっと目指していた「理想の女性像」や「結婚の形」は、自分が本当に望んでいたものだったのか。それとも、社会や周りの期待に応えようとしていただけだったのか。
実在する旅館名が出てないという事はこれも普通の小説枠!? 来週が楽しみ&今後に期待♡
【男と女のポテトサラダ論】の記事一覧
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