2024.09.02
恋のジレンマ Vol.1資料用データは、ほかの不必要なものと合わせて消去してしまっていたようだった。
三浦がそれを、ソフトを使って復元してくれた。
「ほら、これだろう?もとに戻せたぞ」
「うわっ、本当だ!ありがとうございます!」
― 助かったぁ…。これで明日はなんとかなりそう。
三浦の迅速で適切な対応に感謝し、胸をなでおろす。
「リスク管理がなってないな」
「はい。すみません…」
「福園はしっかりしているように見えて、なんでも後回しにしがちだから。気をつけろよ」
三浦の指摘に、麻貴はハッとした。
子どものころから母親に言われていたセリフとまったく同じだったからだ。
麻貴には昔から物事を先延ばしにしてしまう癖があり、よく注意を受けていた。
「今回お前が頑張っているのは、よく伝わってきてたからさ。こんなところでつまずくのはもったいないだろう」
― 私のこと、気にかけてくれてたんだ…。
「明日のプレゼン、頑張れよ」
三浦からのエールに、麻貴は胸の奥がじわっと熱を帯びるような感覚をおぼえた。
◆
仕事を終え、友人との食事を楽しんだ麻貴は、帰宅の途についた。
食事中、友人に、三浦との一件を話した。
「その先輩のこと気になってるなら、食事にでも誘ってみたら?」
友人の言葉が頭に浮かぶ。
三浦とのやり取りを思い返すと、麻貴は胸の奥がほんのり熱くなった。
― う~ん。確かに2人で会ってみたいけど…。
自分の気持ちを確かめる意味でもその必要性を感じるが、すんなりとは行動に移せない、ある事情を抱えていた。
麻貴は、青山にある自宅マンションに戻り、部屋のドアを開ける。
玄関には、男性用のレザーシューズが脱ぎ捨てたように並んでいる。
「お帰りー」
リビングから声が聞こえた。
麻貴は、男と一緒に住んでいるのだ。
「雄星、またゲーム?よく飽きないねぇ」
ソファに寄りかかりながらテレビゲームに没頭する男の名は、雄星。
年齢は麻貴のひとつ下。
一緒に住んではいるが、すでに2ヶ月前に別れている。
半年前に付き合い始め、雄星が転がり込むかたちで同棲が始まった。
彼は、20代ながら飲食店を経営している。麻貴は、彼の年齢に似つかわしくない自信に満ちた雰囲気を新鮮に感じ、付き合い始めた。
だが、一緒に住むと年相応の幼さが目につくようになり、すぐに興味が薄れた。
それでも同居を続けているのは、家賃を半分もらっていることに加え、さらに利点があったからだ。
雄星は車を持っていて、地下駐車場に停めている。タクシーが拾いにくい日などに、送り迎えをしてもらえるので、重宝しているのだ。
別れたあと、雄星は「部屋を探している」とは言いつつも、そんな気配もなく居座り続けている。
麻貴も雄星も、互いに悠長に構え、ダラダラと同居を続けてしまっていた。
まさに、「なんでも後回しにしがち」と三浦から指摘されたとおりの状況だった。
― こんなことならもっと早くケジメをつけておくんだった…。
雄星の存在が、次の恋へと進むのに足かせとなってしまっている。
とはいえ麻貴は、恩恵にあずかっている面もあるため、あまり強く言えない。
自分のだらしなさを後悔しつつ、床に寝そべる雄星を見やった。
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