恋のジレンマ Vol.1

恋のジレンマ:職場恋愛に消極的な27歳女。実は“あるコト”の発覚を恐れていて…

3日後。

麻貴の住むマンションで、ある騒動が起きた。

仕事帰り、まだうっすらと日の明かりが残る時間帯。

麻貴は、青山一丁目駅から自宅マンションに向かって歩きながら、どうもいつもより人通りが多いように感じた。

マンションに近づくにつれ、徐々に人の数が増していく。さらに、赤いパトランプが点灯しているのが遠目に見え、麻貴は胸騒ぎをおぼえた。

― え、なになに。まさかうちじゃないよね…?

足早に歩を進めると、マンションのエントランス付近に、パトカーと消防車が停車している。


人だかりができており、マンション内で何度か見かけたことのある住人の姿もあった。

辺りには、何かが焦げたような匂いがかすかに漂っている。

麻貴は建物に目を向ける。外観に変化はなく、煙が出ている様子はない。

「麻貴!」

名前を呼ばれて振り返ると、雄星が立っていた。

Tシャツに短パン、サンダルという格好で髪も乱れ、急いで部屋から出てきたのがわかる。

「雄星!何があったの?」

「どっかの階の火災報知機が作動したみたいで。非常ベルが鳴って、避難するようアナウンスが入ったんだ」

「大丈夫だった?」

「ボヤで済んだみたいだけど…。仕事が早めに終わって、部屋に戻ってシャワー浴びてるところだったからビックリしたよ」

着の身着のままといった雄星の様子から、いかに慌てていたかが伝わってくる。

「そうなんだ。まあ無事ならよかったけど…」

「あ、そうそう」

雄星がポケットから何かを取り出した。

「とりあえず、これだけ持って出てきたんだ」

手に握られていたのは、ルイ・ヴィトンのロングウォレットだった。


「それ、私の…」

麻貴は普段、コンパクトサイズのものを持ち歩いているため、長財布は家に置きっ放しにしていた。

あまり使用しないカード類の保管用にしているものだった。

「俺もパニくっちゃってさ。それしか持ってこれなかったんだ」

「うん、ありがとう…」

もし火が燃え広がっていたとしたら、財布が無事かどうか不安に駆られていたはずである。

それに、もしこの場にひとりでいたならば、さぞかし心細かったに違いない。

― 雄星がいてくれて…助かった…?

麻貴は、雄星の存在を疎ましく思ったつい先日のことを、申し訳なく思った。

そこで、消防隊員からアナウンスが入った。

「安全が確認されたので、住人の方はどうぞお部屋にお戻りください」

外に避難していた者たちがぞろぞろと歩き出し、はけ始める。

「俺たちも戻ろっか」

「う、うん…」

新しい恋の障壁だと思っていた元カレに、助けられてしまった。

― う~ん、こういうこともあるんだな…。

麻貴は、複雑な思いを抱きつつ、雄星の背中を追った。


▶他にも:「なんかキレイになった?」元カレに呼び出され1年半ぶりに再会したら、イイ雰囲気で…

▶NEXT:9月9日 月曜更新予定
【後編】雨のなか元カレに迎えに来てもらう麻貴。気になる先輩に現場を目撃され…

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この記事へのコメント

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No Name
読んだ感じ、三浦さんが3つ上の先輩とは思えなかった。50過ぎのおじさんみたいな口調だし。後輩をお前呼ばわりも....
2024/09/02 05:2139返信2件
No Name
私の感覚では、たった入社5年目でプロジェクトリーダーを任されるのか…と思った。
しかも大事なデータを消去してしまうような子なのに。
2024/09/02 06:0727返信1件
No Name
また応援出来そうにない主人公。
リーダーが、保存したデータが見当たらないやら間違えて削除してたとか… まさかウィッシュと同じライターさんか。
2024/09/02 07:1527
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