
驚きのカウンターとキッチンの距離。コンセプトはコミュニケーションバール
※こちらの店舗は、現在閉店しております。
ビストロ・アバ
Bistro Abats
世界を巡り辿り着いた、想像力を盛り込む内臓料理。
北海道で生まれ育ち、18歳で料理の世界に飛び込んだひとりの青年。彼は3年間の修業の後、世界が見たいと、かねてからの目標であった単身陸路でのヨーロッパを目指す旅に出る。大連、チベット、インドと旅を重ね、1年半でアジア横断。数えきれない人に出会い、数えきれない郷土の味を食した。
当時を振り返り、「視野を広げたかった。食文化が知りたくて、市場を巡るのが楽しみだった」と、門脇憲シェフは照れ笑いする。その後、イタリアでの修業や中南米の旅も含め6年半を異国で過ごした青年は、敏腕の料理人として凱旋帰国。銀座のイタリア料理店でシェフを務めた後、昨年、本郷に『ビストロ・アバ』を誕生させた。
仏語で“内臓”を意味する店名は、長い旅路で彼が見出したひとつの答え。店では、世界中で味わった内臓料理やシャルキュトリーをビストロ料理にアレンジし、豪快かつシンプルに楽しませる。例えば、得意とする仔羊の腸詰は、肩肉に腎臓やレバーを加えつつ、アンチョビで風味をプラス。溢れ出る肉汁と食感が幾重にも広がり、“仔羊丸ごと”の旨みの連続に、ついついワインも進んでしまう。
ここには、漲る情熱で客を迎えるシェフと、世界を巡った経験が紡ぐ美食が待ち構えているのだ。
イル スカンピ
Gli Scampi
自らが信じる美味を、衒うことなく披露する。
店名に掲げたスカンピ(=赤座海老)が文字通りのスペシャリテ。3種のメニューが黒板に並ぶ。もうひとつの看板がヴェネツィアの郷土料理。魚介だけでなく野菜も特産のヴェニスらしく、イワシやイカのほか、耳慣れない野菜の名もメニューには掲げられている。
オーナーの及川博登氏は元々、設計事務所で働いていた人物。仕事で関わるうちに飲食店の愉しさに開眼。某バールのマネージャーを経て、9月にこの店を開いた。
「店のデザインも自分でした」。コンセプトはコミュニケーションバール。「いい意味でラフにしたかった」とのことだが驚くのはカウンターとキッチンの距離。その近さは「少しやり過ぎたかも」と自ら語るほどで、スツールに座れば、調理工程のすべてが見渡せてしまう。及川氏が腕と情熱を見込んだ若きシェフ、金子崇裕シェフも言う。「裸になった気分です」。
店と客とのコミュニケーションの中から感じて欲しかったのは、「理屈でなく美味しいから飲んで食べて」という想い。店名をシンプルにしたのも、10坪までの物件にしたのも、料理を観光地として名高いヴェネツィアに特化したのも、親近感を表現したかったから。
己の信じるものを伝える姿勢に好感が持てるのだ。