前回:「他の人とデート行くの、俺もちょっと寂しいよ」28歳女に思わぬモテ期が来た理由とは
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「お姉さん、僕、お姉さんにまた会えたらいいなって思っていました。またお会いできてうれしいです」
揉める両親に挟まれ必死に涙をこらえ震えていた小さな男の子…タケルくんの印象は、あの日とはずいぶん違っていた。
カジュアルスーツとでも言うのだろうか。グレーのジャケットにパンツ。ネクタイこそしていないものの、パリっとノリのきいたようなシャツ。
そして何より10歳とは思えぬその言葉遣いや落ち着いた物腰。それらに驚く私に大輝くんが、ほらオレが言った通りだったでしょ、と得意げにささやいた。
それは、オレがタケルくんだったら宝ちゃんにまた会いたいと思うと言っていたことを指すのだろうけど、タケルくんがなぜ?と私はいまだに半信半疑だ。そんな私をよそに、少しだけ僕たちとお話してくれないかな?と別室への移動を説明する大輝くんに、でも…とタケルくんが顔を曇らせた。
「おじいさまにばれてしまうと…またご迷惑がかかります。お姉さん、先日はうちの事情に巻き込んでしまって、申し訳ありませんでした」
ご迷惑がかかるとか、事情に巻き込むとか、申し訳ないとか…なんという10歳。ピンっと姿勢のよいタケルくんを見ていると“良いお家の子ども”というフレーズが迷いなくはっきりと浮かんで、自然と私の背筋も伸びた。
思わず、いえ、こちらこそご迷惑を、とかしこまってしまった私を笑いながら、大輝くんが言った。
「おじいさまのことは心配しなくても大丈夫。うちの父がうまくやってくれることになってるから」
なるほど、お兄さんは友坂さんの…とタケルくんがつぶやいた。どうやら2人は、何度かパーティで顔を合わせたことがあったらしい。パーティが日常の世界で育ってきた彼らはやはり私にとっては異次元だ。
「だからここまで入ってこれたんですね」
安心した様子のタケルくんに、10歳にして大人の勢力図のようなものを把握しているのかと感心する。瀧川家の先代当主、タケルくんのおじいさまにばれる心配がなくなったということで、タケルくんは素直に私たちについてきてくれた。
大輝くんの先導で個室へと移動する。赤じゅうたんが敷かれた階段を上がった3階の一番奥の部屋。鍵を開けた大輝くんに続いて入るとそこは、まるで秘密の隠し部屋のような雰囲気だった。
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この記事へのコメント
あと伊東さん、宝ちゃん狙いなのね!なんだかほのぼの♡