アオハルなんて甘すぎる Vol.13

「港区の闇にのまれたのは…私」お金と野心に目がくらんだ女の後悔とは

「感情に流されて、宝ちゃんを連れて行ったジャッジが甘い、でしょ?あとは」
「…」
「携帯を持たせることにリスクを考えなかったのか。それに」
「…」
「あんな男を選んだんだから自業自得、だよね」
「……自覚してるなら進歩だな」

やだなんか優しいじゃん!雄大が優しいと怖い!とふざけた愛に、雄大の眉間のシワが深くなる。そんな顔しないでよ~とその肩を押した愛が、私さ、と続けた。

「宝ちゃんと初めて2人で飲んだ日にね。この辺りで生活始めると、闇にのまれちゃう女子もいるから気を付けてって…言ったんだけどさ」
「…」
「闇にのまれた女子が私だなんて、宝ちゃんは思ってもいないと思うけど。あーあ、あの頃の私ってひどかったよねぇ」
「…」
「お金と野心に目がくらんで、成り上がりたくて」
「今更過去に浸るな。無駄だ」

ぴしゃりと雄大に遮られた愛は、笑いながら溜息をついて脱力し、ソファーの背もたれに大きく体を預けて天井を仰いだ。しばらくの間どちらも言葉を発さず、雄大がグラスを回し、持ち上げるたび、その氷の音が響く。沈黙を破ったのは雄大だった。

「…タケルくんのことをあきらめろ」
「…は?」
「一緒に暮らすことを、もうあきらめた方がいい」
「……何言ってんの?…え?なんか作戦ってこと?取り戻すために、一旦あきらめるふりをするとか?そういうこと?」

戸惑い揺れる愛の問いに、雄大は冷めた表情のまま言った。

「今の愛じゃ、タケルくんを幸せにできない」

愛の目が見開かれ、怒りに顔が染まる。

「…そんなことない。そんなこと、あるわけない」

絞り出された声が、私はタケルを幸せにするために生きてるの、とヒステリックに悲痛に響き、雄大の胸の奥でジリっと何かが焦げて痛みが走る。それを無視して雄大は続けた。

「お前とタケルくんの関係がどんなに良好だったとしても、タケルくんが今一緒に暮らしているのは…少なくともあと5年は保護を受けなければならないのは父親だろう。そしてその父親は伝え方はともかく、最高の教育を与えようとしてるようには見えるけどな」
「雄大は知らないからよ。タケルがあの家でどんなに肩身が狭い思いをしているか。どんなにあの父親におびえているか」
「確かに知らないよ。でもそうだとしても、今すぐには救い出せない。それが現実だろ」
「…だから、せめて月一の面会だけは…でも海外に行かれちゃったら…」

愛がうつむき、その肩が震え出す。


― やめてくれ。

愛に泣かれるのは本当に困る。近づいてその肩を抱き寄せ、支えたくなる感情に名前をつけたくもない。ごまかすように雄大は言った。

「…今回のことでよくわかったろ?これ以上どうにもならないってことも、両親が争えば争うほど、タケルくんが板挟みで苦しむんだ、ってことも」

愛はうつむいたまま、答えない。雄大はラムを一口、口に含んだ。喉を焼くアルコールの力をかりて、続きを口にする。

「タケルくんが海外に行ったとしても、月一の面会は、オレが必ず死守してやる。会えなくなるなんてことには絶対にさせない」

愛が、顔を上げた。その目は、驚きで見開かれている。

「……雄大、どうしたの?」
「どうしたの、ってなにが」
「そんなこと雄大にできるわけないでしょ」
「やってみなきゃわからないだろ」
「ほら。ますます、らしくないよ。やってみなきゃわかんない、なんて。雄大の大好きな合理的ってやつじゃないじゃん。……宝ちゃんみたいだよ」

― 宝ちゃん、みたい…?

思いもよらなかった指摘に一気に気まずくむず痒くなった雄大は、慌てながらも平静を装って話を切り返した。

「まあとにかく、手を離すことも愛情なんじゃないかってオレは思っただけ。昔話にそういう話あったろ。どっちが本当の親かみたいなの確かめるやつで」

ああ確か、江戸時代の裁き的なお話だね…と、自分の環境に重ねたのか、愛がまた落ち込んでうつむく。しまったと思いながらも、うまくごまかせたようだと雄大はホッとした。

― 確かに、らしくない。どうしたオレ。

愛の面会のペースだけは守ってやりたい。その熱が、自分が否定した宝の幼い熱と同じものだとは断じて思わない。思いたくはないが。

― 影響を受けてる…のか?宝ちゃんの…?

思わず浮かんできた考えに戸惑い、慌てて打ち消すと雄大は、作戦を立てるための具体的な質問を愛に始めた。

この記事へのコメント

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No Name
そうね、タケルくんにとっては愛さんも自分の気持ちを押し付けてくる大人でしかないのかもしれない。息子を取られて月1回しか会えない寂しさが先走って、タケルくんの本心を無視してたような気もする。
2024/04/27 05:4643
No Name
キャンドルを吹き消す際、自分のことを願うんだよと言われたのに愛さんとタケルくんの願いが叶いますようにって... 宝ちゃんの人柄の良さが痛いほど伝わってきた。
2024/04/27 05:5140
No Name
今回も読み応えありました。毎週土曜日、楽しみにしています。報われない男、の方も待ってます。
大輝くん、幼い頃の複雑な環境からか、人の心を読み取ることに長けてるね。そういう人物設定もこのライターさん、上手いと思います。
2024/04/27 07:3030
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