それぞれの胸の内
披露宴が終わり、軽く一杯飲もうという話になり、3人はホテル内にある『The Bar』へと移動した。
乾杯し直した後、ミナトがウイスキーのソーダ割りを勢いよく喉へと流し込むと、薄笑いを浮かべて聞いた。
「で、2人はぶっちゃけどうなの?色々とうまくいってんの?」
「仕事?まあな」
ミナトからの質問に、幸弘が怪訝な顔をして、そっけなく答える。
正直、何か問題があっても、職業も環境も違う彼らにわざわざ打ち明けたところで仕方がない、と幸弘は思っている。
いつもこんな調子で幸弘が会話を終わらせてしまうため、話を広げるのは陸の役目だった。
「幸弘は、企業専門の弁護士だっけ?」
「あぁ。M&Aとか知財とかやってる」
「そっか、じゃあもし僕が患者から訴えられても、幸弘には頼めないかな?」
陸が冗談交じりに言うと、ミナトが「違う、そうじゃなくて」と語気を強めた。
「俺が聞いてんのは、夫婦仲!嫁さんとは、うまくいってんの?」
「なんだよミナト。結婚式見て羨ましくなったか?」
ミナトを冷たくあしらうように言う幸弘。
けれど、披露宴ですでに5杯のシャンパンやワインを飲んだミナトは、お構いなしに続ける。
「ああそうだよ、何が悪い。羨ましいさ、正直。若くて可愛らしい奥さんで、幸せそうでさ…」
「それを言うならミナトだって。奥さん、元モデルだし綺麗だろ?子どもだっているし、幸せそのものじゃないか」
陸が驚いたように言うが、ミナトはすでに酔っているのか「フン」と鼻で笑う。
ミナトは、慶應を出た後、総合商社を経て、現在は外資戦略系コンサル会社に勤めている。妻と出会ったのは、今の会社に入ってから。
忙しい合間を縫っては、同僚と食事会を開いているなかで、2人は出会った。
モデルの彼女に一目惚れしたミナトは、彼女に気に入られようと、高級レストランやホテル、ブランド物をあげるなどをして、なんとか彼女の心を掴んだのだ。
3年前には子どもも生まれ、幸弘からすれば、不満などなさそうに思われたのだが。
「結局さ、手に入ったら、価値がわかんなくなんのかな…」
寂しそうに言うミナトの言葉を、黙って聞いていた陸が、静かに口を開いた。
「あのさ、僕、実は…。ずっとしてないんだよね、その、奥さんと」
突然の告白に、ミナトが目を丸くして陸の顔を見た。
「してないって…もしかして、レスってこと?」
「そう。なんか、できなくて奥さんと…」
陸の思わぬ告白に、酔っていたミナトが続ける。
「マジで?実はさ、俺んとこも、ずっとセックスレスなんだ」
「うそ、ミナトも?良かったー、同じようなやつがいて」
2人の会話を黙って聞いて幸弘は、スーツの胸ポケットでスマホが振動するのを感じた。素早く取り出し、通話ボタンをタップする。
「わかった、今から出る」
幸弘は電話を切ると、2人に「悪い、俺、いくわ」と告げた。
「お、仕事?それとも奥さん?良いよな、結婚して2年半くらいだっけ、幸弘が一番幸せもんだな」
絡むミナトに、幸弘が涼しい顔をして答えた。
「いや、彼女。妻となんて、両手ほどもやってないから。じゃ、またな」
表情ひとつ変えずにそう残すと、幸弘は颯爽とその場を後にした。
▶他にも:「同期といるのしんどい」仲良しグループでハワイ旅行に行った代理店勤務・26歳女の本音
▶︎NEXT:4月12日 金曜更新予定
衝撃の発言をした幸弘の夫婦生活の実態とは…?
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この記事へのコメント
ミステリーは終わったけど火曜水曜の連載が恐ろしくつまらないので、この連載はスベりませんように!来週に期待。