同級生3人の再会
「幸弘!久しぶりだな」
「ザ・リッツ・カールトン東京」のエントランスでタクシーを降りた幸弘は、不意に後ろから声をかけられた。
振り返ると、高校時代に仲の良かったミナトが立っている。
「おー、ミナト。久しぶり。お前いつも忙しいから、来られないかと思ったわ」
「いやいや、幸弘ほどじゃないよ。最近どうよ?相変わらずか?」
幸弘とミナトが世間話をしながら会場へ通されると、同じテーブルに中肉中背の男がすでに座っていた。
「うわ、陸じゃん!久しぶり。陸、ちょっと太った?」
言った途端、ミナトはわざとらしく口に手を当てる。
「やべっ。今の時代、見た目のことを言っちゃ、いけないんだっけ?」
いつものミナトのノリ。
陸は「おい、幸弘。訴えたら勝てるよな?」と笑って返した。
幸弘、ミナト、陸の3人は、港区にある中高一貫校の出身。
高校1年生のときに、同じクラスになって以来の付き合いだ。
3人がいつものようにじゃれあっていると、司会者の声が会場に響き渡る。
「それでは皆さま、新郎新婦の入場です。温かい拍手でお迎えください」
気恥ずかしそうな顔をした元同級生が、着慣れないタキシードに身を包み、会場へ入ってきた。
彼の隣を歩く花嫁は、まだ20代半ば。
みずみずしい白い肌の腕やデコルテを惜しげもなく露出し、彼女の美しさを最大限に引き出している。
披露宴が始まり、2人のプロフィールムービーが流れる。新郎新婦は幸せな表情を浮かべながら、時に笑い合い鑑賞している。
そんな彼らを見た陸は、心の底から「はぁーっ」とため息をついた。
「なんだよ陸、めでたい場でしけた面して。こんな時まで、患者のことでも思い出したのか?」
からかうように言うミナトに、陸はため息の自覚がなかったのか、慌てた表情を見せた。
陸は高校を卒業したあと、一浪して、東京の私大医学部へと進んだ。
同じ医学部にいた1つ上の先輩と結婚し、今では妻の父親が経営する病院で働いている。
「違うよ。ただなんか、奥さん綺麗だし、幸せそうで良いなって」
「え、なんだよ?陸の奥さんだって、美人なうえに女医で、親は病院経営。最高だろ?」
「まあ、そうだけど…」
陸はバツの悪そうな顔をして、口を閉じた。
陸の表情を察してか、ミナトもそれ以上は何も聞かず、新郎新婦の方を見る。
そしてミナトまで「確かに、なんか初々しくていいよな…」と、独りごちた。
うっとりとする2人の隣で幸弘は、興味なさそうな顔をして、シャンパンを静かに口に含んだ。
この記事へのコメント
ミステリーは終わったけど火曜水曜の連載が恐ろしくつまらないので、この連載はスベりませんように!来週に期待。