アオハルなんて甘すぎる Vol.4

夫が会社の部下と恋に落ちた。とんでもない男の態度にショックを受けた妻は…

「じゃあ、全てを聞いたようなもんだね」と雄大さんは、事情の説明を始めた。

大輝くんは、昨年から年上の女性と不倫関係にある。大輝くんは、恋愛にドはまりするタイプで、恋をすると雄大さんに報告し、話をきいてもらうのだという。

雄大さんは、大輝くんの“不倫の恋”を止めることも、応援することもなかった。ただし、愛さんには絶対に言うなと伝えていた。その理由は、愛さんが、俗に言う『サレ妻』というものだったからだ。

愛さんが、5年前に離婚した原因は、夫が会社の部下と不倫したことだったらしい。しかも離婚後、夫はその相手と再婚し、愛さんとの間の子ども…小学4年生の愛さんの息子さんと一緒に3人で暮らしていて、昨年には2人の間に新たに子どもも生まれたという。

「…愛さん、お子さんがいらっしゃったんですね」

「そう。オレから見てもめちゃくちゃ良いお母さんしてたよ。でも元夫の方が、大地主の家系で金持ち。で、代々大物政治家の後援会会長、っていう経済力的にも、政治力的にも圧倒的強者だった。

その上、相手の弁護士が離婚訴訟のスペシャリストでさ。どんなに分の悪い裁判も勝たせるっていう、芸能人とか政治家御用達の。もうあくどいというか、なんというか。

結婚前に、水商売してたことをつつかれて、その当時から男ぐせが悪かったとか、とか、事実無根な事まで捏造された。信じられないけど、その馬鹿げた捏造がまかり通ってさ。離婚後、男に夢中になったら、育児放棄になりかねない、とか。

愛が両親を亡くしてることが、不利になったりもした。当時愛は、夫の両親と同居していたんだけど、サロンをはじめたばかりだったこともあって、仕事で自分が幼稚園に迎えにいけないとか、困った時には夫の両親や、両親が雇っているお手伝いさんとやらを頼っててさ。それが、夫の両親なしでは育児が成り立たない、と判断されたらしいんだ。

詳しい最終判決は、俺も聞いてない。というか、愛が辛そうすぎたから、聞けなかったんだけど、息子と一緒に暮らす権利を元夫に奪われた、ってことは知ってる」

離婚原因が、相手の不倫にもかかわらず、今は、愛さんは1ヶ月に1度ほどしか子どもに会えず、愛しいわが子は、不倫相手を母と呼ぶ生活をしている。

「そりゃ、極度の不倫アレルギーにもなるのもわかる。だから、大輝には、愛には絶対言うな、って言っといたんだけど」


大輝くんとキョウコさんの関係が始まって1年とちょっと。その間、愛さんの質問を大輝くんはうまくかわしてきていたという。それなのに、昨夜は。

「俺たち、3人一緒に旅行して同じ部屋に泊まるのって、実は久しぶりでさ。店で会う時とは違うリラックス感が出ちゃったのかな。珍しく、愛がしつこかったんだよね。まあ2人とも酔ってた、っていうのもあると思うけど」

いつもは話してくれるのに、今回だけ隠したい、ってことはさ、と愛さんが詰め寄ってしまった。

「もしかして、不倫?だったら最悪なんだけど。って、愛が嫌悪感丸出しの顔で問い詰めたから、大輝も珍しく、スイッチ入っちゃってさ。

人の恋愛をよく知りもしないで、最悪って言う方が最悪でしょ、ってキレた。

愛さんの、正義感まっしぐら、みたいな性格って、時々、めちゃくちゃウザい、とか言っちゃって。そこからはもう、売り言葉に買い言葉的に全部バレた」

そこからは、宝ちゃんが聞いてた通りで、あの後、大輝を部屋に戻して、オレは朝まで愛に付き合ったってわけ…と雄大さんは溜め息をついた。

誰にだって、うまくいかないことの1つや2つがあることはわかっている。でも愛さんや大輝くんは、私が出会ってきた人の中でも殊更キラキラしていて、毎日が楽しい事ばかりの人たちに見えていたし、そのキラキラに、そんな裏側…苦労があるなんて思いもしなかった。

「…私に話しちゃってよかったんですか?」

「愛には、多分宝ちゃんいたよ、オレからちゃんと説明しとく、って伝えてある。パリでもあと2日一緒にいるし、これから顔を合わせる度に、宝ちゃんに知らないふりさせるのもどうかと思ってさ。愛も同意してたから」

大輝は事後報告でも気にしないから大丈夫、と、雄大さんは続けた。

「宝ちゃんも不倫とか、絶対ダメなタイプだろうから。なおさら説明が必要かな、って」
「…絶対ダメ、ってことは…」
「ダメでしょ」
「…」

元カレに浮気されてフラれた私を、いわゆる『寝取られた女』だと知っているから、雄大さんは聞いているのだろう。

「…絶対、ダメとかはわからないですけど…傷つく人がいるんだよ、って思います」
「それはそうだろうね」
「雄大さんは、不倫、とか、どうなんですか?」
「不毛な恋愛とか世界で一番いらないモノ」
「……それでも、大輝さんを止めないんですか?」
「大輝とはちゃんと話してるけど、不倫、ってカテゴライズされるだけじゃわからない本人たちの事情があるんだろうし、人生、そんな思い通りにならないもんでしょ。でも宝ちゃんが大輝のことをキライになるのは自由。そこはご遠慮なく」

淡々とそう言うと、雄大さんは、愛さんと大輝くんのためのお土産、クロワッサンとショコラパンを注文してくる、と、席を立った。

レジの前で、マダムと談笑する雄大さんを見ながら、私は、ふと思った。雄大さんが恋をするのは、一体どんな女の人なのだろう。

大輝くん程のわかりやすい美貌ではなくても、多分それなりにルックスが良いと言われる人種であろう雄大さんは、身長も175cmは超えてそうだし、スタイルもいい。

服や車、時計などを高級にすることには全く興味はないらしく(普段着はユニクロでも十分らしい)派手さはないけど、清潔感はあるし、仕事もできてお金もあるとくれば、絶対にモテると思う。いちいち毒舌…というか、言葉がキツイ所は難点ではあるけれど。

そういえば…初めて会ったあの夜。

愛さんと雄大さんの間に甘い空気が流れた気がしたのは、私の気のせいだったのかな。

この記事へのコメント

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No Name
いやいやー、不倫相手の女に子供を取られて(大袈裟な言い方ではあるけれど)、我が子が今その人をママと呼んでるとか考えたらもうメンタル病みそう。愛さん大変だったんだね。
2024/02/17 05:4548返信10件
No Name
本当に面白い、この話!! 宝ちゃんの、平凡で控えめ...揉め事が苦手な女の子感もいいし、それ以外皆キャラ濃いし。 来週シャンパーニュ、楽しみだ。
2024/02/17 05:4332返信2件
No Name
相手の弁護士のくだり、「離婚できない男」の財田先生が浮かんだわ。父親が親権を取れる確率は1割なんでしょう? 色々とでっち上げてひどい話....
大輝とガチバトル、すごい事になってそうで🤣
2024/02/17 05:4929返信4件
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