前回までのあらすじ:港区で知り合った愛や雄大たちとともに、パリ旅行に来た宝。そこで大輝が不倫している話を聞いてしまい…。
◆
6時50分。携帯のアラームが鳴る10分前に目が覚めた。起き上がってカーテンを開けると、日の出が遅いパリの街はまだ真っ暗で、まるで夜。
昨夜、水をあきらめてベッドに戻ったけれど、しばらく眠れず。最後に携帯を見た時には2時過ぎだったから、5時間くらい眠った、ということになる。
「明日の朝食はね、宝ちゃんを連れて行きたいカフェがあるの」
そう言ってくれていた愛さんとの約束は8時にリビングに集合。まだ1時間程余裕がある。ただ。
― 昨日、あれから大丈夫だったのかな。
大輝さんに対する愛さんの怒りと、それを諫める雄大さんの声を思い出し、今日の朝食の約束は果して実行されるのか、とやや疑問ではあったけれど、とりあえず服を着替えて、愛さんに「女子用ね」と言われていたバスルームへ向かった。
誰かがヒーターを入れてくれていたようで、バスルーム全体がじんわりと暖かい。洗面所の鏡の前に宝ちゃん用、とかかれた水のペットボトルが置かれていた。おそらく愛さんからかな、と気遣いに感謝しつつ、昨夜以来乾いていた喉を潤し、顔を洗ってメイクをした。
メイクと言っても、ベースを塗り、眉毛を整えてリップでほぼ終わりという、10分もかからない単純な作業を終えて、昨夜の“不倫”についてのもめ事が今もまだ続いていたらどうしよう、などとドキドキしながら、私はリビングへ向かった。
そもそも、大人同士が面と向かって言い争う、という現場を見たのは、初めてかもしれない。私は口論が苦手だから、そんな環境を無意識にさけてきたのかもしれないけれど。
「…おはよう」
リビングにはコートを着た雄大さんだけがいた。マフラーを巻きかけていて、どこかに出かけようとしているようだった。
「愛と大輝はまだ寝てる。オレは今からカフェに行くけど、一緒にいく?」
「…え?」
「宝ちゃん、昨日の夜、俺たちの話、聞いてたでしょ?」
気づかれていた。雄大さんの位置からは、リビングの入り口のドアのすりガラス越しに、立ち去る私の影が見えたらしい。すみません、聞くつもりはなかったんですけど、と、もう一度謝ると、こちらこそ騒がしくて申し訳なかった、と謝り返される。
「宝ちゃんにちゃんと説明しておいた方がいいかな、と思って」と雄大さんは言った。
「今のままじゃ、あの2人に会うの気まずいだろうし、心構えがいるかなと。日本に帰っても一緒にいることが増えるわけだし。それに愛からの伝言で、今日の朝食は無理そうだから宝ちゃんにゴメン、って。だからオレが代わりに。朝食がてら、説明するよ」
どこか私に対して距離があったように見えていた雄大さんが、私をケアしてくれるなんて意外だったけど、行きます、と答えて、コートを羽織り外へ出た。
......
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この記事へのコメント
大輝とガチバトル、すごい事になってそうで🤣