2024.02.03
アオハルなんて甘すぎる Vol.21週間前の金曜日、あの夜。
「宝ちゃんが人生変えるためにやってみたいこと10個教えて。今までできなかったこととか、あきらめてたこととか?オレが協力する。金がかかることでもいいよ」
雄大さんの言葉が理解できず、脳内がハテナだらけになった。すると美しい顔…もとい、交差点の近くでぶつかった男性が乱入してきて、私の脳内ハテナはさらに増殖。
そこへさらに“手の甲にキス”という異次元行為を受けたものだから、あっけにとられたまま気がついたら男性2人と飲み始めていて、従来の人見知りを発揮するヒマがなかった、ということが自分でも驚きだった。
手の甲キス男…美しい男性の名前は大輝くんといった。私の方が3つ年上だとわかると「呼び捨てでいいよ」と言われたものの、丁重にご遠慮申し上げ、大輝くん、でいかせていただくことにした。
友達と呼べる異性は、物心がついて以来ほぼゼロという私が、知り合ったばかりのイケメンを呼び捨てにするなんて、ハードルが高すぎる。
元々は大輝くんのお父さんが雄大さんの知り合いで、とか、雄大さんは不動産関係の仕事をしている、とか、そんな話を聞いているうちに、白ワインが2杯、3杯とすすみ、ボトルが1本空いた頃には、最初は直視できなかった美しい顔にも慣れた。
「あ~なんでみんな仲良しになってんのぉ~ずるーい」
奥で眠っていた愛さんが起きてきて、「私も飲む!」と張りきったけれど、雄大さんが「今日はもうだめだ」といさめて、愛さんを連れて店を出た。そのタイミングで私も帰ろうと店の人にお会計をお願いすると、もういただいています、と言われてしまった。
「最初のシャンパンの分は雄大さんが払って帰ったし、さっきの白ワインは、ぶつかったお詫びってことでオレから」
「でも…」
「その代わりというか、連絡先教えといてくれない?たぶん愛さんが知りたがると思うから」
私の連絡先がお会計の代わりになるのも、なぜ愛さんが知りたがるのかも疑問だったけれど、言われるがままにLINE交換をし終えたところで、大輝くんの電話が鳴る。着信画面を見た瞬間、大輝くんの顔が、ふわっと優しく緩み、その後、申し訳なさそうに私を見た。
「…ごめん、電話、出ていい?」
「もちろんです」
もう一度、ごめんね、と言った大輝くんが、私から少し離れた場所で話し始める。
「珍しいね、キョウコさんがこんな時間に電話してくるなんて。なんかあった?」
― 彼女さんかな。
“私は会話を聞いていません”、という意思表示で背中を向けても聞こえてしまう距離。大輝くんの声が、とにかく甘くて、優しくて、心配そうで。どれだけその“キョウコさん”を大切にしているのかが伝わってくる。
浮気されてフラれたばかりの私にはうらやましすぎて辛い…とネガティブになりかけた時、電話を切った大輝くんが近づいてきた。
「ごめんね、歩いて帰るでしょ?送っていくよ」
「いや近いし、大丈夫ですよ。大輝くんは、早く彼女さんのところに…」
「彼女さん?」
「あ、今の電話の方…すいません、聞くつもりはなかったんですけど、なんとなく、そうかな、って」
「…あー。彼女じゃなくて、オレの片思いだから大丈夫」
「…カタ、オ、モイ…?」
予想外の言葉に、思わずオウム返ししてしまう。大輝くんがそれを見て笑いながら、「今日は特に酔っ払いが多い日だから絶対送る」と言うので、結局強制送迎されることになった。
並んで歩きながら見上げた大輝くんの身長は186cmらしい。足が驚くほど長く、160cmある私の肩くらいまであるんじゃないか、という錯覚に陥る。
― こんなにイケメンでも、片思いってことがあるんだな。
勝手に親近感が湧き、両思いになれるといいのに…なんて、お節介なことを思っているうちに、マンションの前に着いた。「ありがとうございました」と告げると、大輝くんが両腕を広げた。
「?」
「今日はありがとーのハグ」
「!?」
いきなり抱きしめられ、柑橘系…と単純に説明してはいけないような、苦味みが混じった優しい香りに心臓が跳ね上がる。
“西麻布の人って皆こんなにいい香りがするものなの!?”
”…っていうか、この街の別れ際はハグが決まりなの!?”
呆然とする私の体を優しく離しながら、大輝くんは笑顔で言った。
「西麻布にようこそ」
大輝くんの笑顔が至近距離すぎてヤバい。この数時間で見慣れたはずの美しい顔が、ハグという距離感で新たな破壊力を持って迫ってくる。くらくらするのは酔いが回っているのだと信じたい。
私は決して面食いではない。生まれも育ちも九州・福岡。父からソフトバンクの英才教育を受けたせいで、推しと言えば常に野球選手。しかもルックスで人気のある選手ではなく、目立たないがいい仕事をする選手を好きになる。
中学・高校とアイドルや俳優のキラキラ系イケメンにハマる友達とは全く話が合わず、元カレ・祥吾だって、外見よりも中身重視で好きになった…はず…だけど…結局浮気された…なんて今どうでもいいことだ。ダメだパニック。
「また遊ぼうね」と言い残し立ち去る大輝くんを、私は呆然と見送った。
フランスで何が起こるか楽しみ。
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