食べ過ぎ防止のため、皿を変える
多くの研究から「大きい食器だとたくさん食べ、小さい食器だとあまり食べない」ということが明らかになっています。これを応用したナッジを紹介します。
Google社では、ビュッフェ形式の社員食堂で皿を約2.5cm浅いものに変えた結果、社員は食べ物を3割から5割ほど少なく取るようになりました。
私たちは「皿が空になった」という視覚情報で、満腹の度合いを決めている可能性があります。社員の肥満に悩む企業では、社員食堂の食器を小さくすることから始めてみるのもよさそうです。
「うっかり食べちゃった」を防ぐために
私たちが食べるのは「近くにあるもの」です。近くに誘惑があると象は衝動的に飛びついてしまうため、ダイエットの大敵となるものは、最初から買わないに限ります。
でも、象は「実際に食べる時に節度を持つので、少しずつ食べるはず」と将来の行動に幻想を抱き、ついジャンクフードを買い込んでしまいます。
これは夏休みになると「今日は遊ぶ、でも明日から真剣に宿題をやる」と言いながら、結局いつまでも宿題に着手しない状況に似ています。
今、自制できないのに、将来の自分が自制できる確率は低いはずです。しかし、象は確率的に考えるのが苦手なため、誘惑に負けてしまいます。
これに対しては「買い物をするのは満腹時」と決めること(タイムリーナッジ)がおすすめです。
満腹時にスーパーに行くようにしたら、甘いものを買う量が空腹時に行くより減るというナッジです。
それでも空腹時に買い物に行かなくてはいけない状況になったら、お店に入る前に「今日の買い物は、カゴの4分の1まで」と決めておくのもよいでしょう。
「仕事帰りにスイーツを買って夜中に食べて、次の日後悔」という問題は、日本中で起きています。これを繰り返さないためには、誘惑に負ける自分の姿を予測して、先回りした作戦を立てることが大切です。
あらかじめ「今日はケーキ屋の前を通らずに、まっすぐ帰る」と帰り道を決め、誘惑の多いルートを避けるようにした結果、買い食いをしなくなったという研究があります。
自分が決めたことは守りたくなります。
宣言すると「守らないと恥ずかしい」という気持ちが生まれ、実行できる可能性が高まります(コミットメントナッジ)。
ただし「夏までに痩せる」という抽象的な宣言をしても、象は今何をしてよいかがわからなくなり、結局行動しません。
これに対して「決めた道順通りに帰る」といったわかりやすい目標なら毎日できそうです。
5. 本書のココがすごい!
今回紹介した、『心のゾウを動かす方法』竹林正樹著(扶桑社)のすごいところは下記に集約される。
① 行動経済学という難解な学問を、身近な例でわかりやすく説明してくれている。
② 「わかっちゃいるけど、やめられない」のメカニズムを科学的に理解することで、ダイエットや健康に良いことなど行動に移すことができる。
③ 本書で紹介されているナッジを知ることで、駅やお店など身近なところで実は様々な行動変容を促されていることがわかり楽しくなる。
【著者】 竹林正樹
青森県生まれ。青森大学客員教授。立教大学経済学部卒業後、University of Phoenix大学院にてMBAを取得。青森県立保健大学大学院博士課程修了(博士〈健康科学〉)。
行動経済学を用いた公衆衛生を研究。政府の日本版ナッジ・ユニット有識者委員などを通じて行政や企業のナッジ戦略を支援。軽妙な津軽弁で年間200回以上の講演を行っている。
TED×GlobisUで「心の中のゾウと仲良くなると、人は動く」は80万回以上再生。
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