2024.01.27
アオハルなんて甘すぎる Vol.1「宝ちゃんって友香ちゃんの…?」
「大学の同級生です」
「親友が引っ越してくる、っていうから、友香ちゃんと似た感じの子を想像してたんだけど…」
「全くタイプが違いますよね。仲がいいっていうと驚く人が多いです」
佐々木友香と佐々木宝。同じクラスで出席番号が前後だったことから仲良くなった。福岡出身で大学からの上京組である宝とは違い、友香は東京・港区生まれ、港区育ちのお嬢様。
「地味佐々木と派手佐々木」
嫌味な教授がそう言い分けたとき、友香は憤慨していたが、宝は「うまいこと言うな」と感心した。他人からみれば属性が正反対の2人だが、一緒にいると居心地がよいのだ。
大学卒業後、宝は外資系製薬会社に就職。友香はアパレル企業に就職したものの、早々に退職し、今は家族ぐるみのセレブレティ人脈をいかし、世界中を飛び回るインフルエンサーになり、ここ1年はパリに住居を構えている。
そんな友香に宝が、港区に引っ越そうと思っているとビデオ通話で話したのが2ヶ月前。すると友香は実家が懇意にしている不動産業者に話をつけてくれて、そのおかげで西麻布にお得な物件を見つけることができた。
「ついでに、西麻布に住んで長い友達も紹介するよ。近くに知り合いがいる、と思ったら少しは安心するでしょ。私も宝のことが心配だし」
その友達が、雄大くんこと川上雄大で、友香が今日の待ち合わせをセッティングしてくれたのだ。年齢は30代後半と聞いている。予想に反して全然ぎらぎらしてなくて、むしろさわやか属性に見える、というのが宝の雄大への印象だった。
「そもそも宝ちゃんは、なんで西麻布に引っ越してきたの?」
宝は、正直に告げた。
「恥ずかしいですけど…失恋したんです。フラれた、といいますか…それで、その…」
「…」
「人生変えたくなって。今までの自分とは正反対のイメージの場所に住もうと思って」
「……で、西麻布?」
「はい。西麻布にこだわったわけじゃなくて、港区で探してたんですけど、友香のおかげでいい物件がたまたま西麻布にみつかった、って感じです」
「たまたま、ねえ」
雄大の言葉に笑いが混じった気がした。
「今、笑いました?何かおかしかったですか?」
「あ、ごめん、おかしいっていうより、なんかかわいいなぁって」
「…かわいい…?」
「失恋で人生変えようと思って港区に引っ越してくる、っていうのが、ずいぶんロマンティックというか…友香ちゃんと同じ年ってことは、もうすぐ30歳でしょ?」
「…まだ27です」
「27かぁ…」
― もしかして私、バカにされてる?
そう思った瞬間、あ、ごめん、バカにしたわけじゃないよ、と、雄大が言った。
「宝ちゃんって、顔に出やすいタイプだね」
「………すみません」
「いや別に、謝ることじゃないけど。ちょっとうらやましいな、って思ってさ」
「うらやましい?」
「未来が変わることを信じる姿勢、とか、この街に期待できる純粋さ、かな」
「…?」
宝は返事ができず、ぐぐっと、シャンパンを飲み干す彼をただ、ただ見ていた。雄大は店長らしき人に「もう一杯くれる?」と頼んだあと、宝の目をまっすぐに見て「うん、面白いかも」と言った。
「面白い、ってなにがですか?」
「いや、宝ちゃんを応援させてもらおうかな、と思って」
「わたしを…応援???」
ますますわけがわからなくなった宝に、また顔にでちゃってるよ、と雄大が笑った。
「宝ちゃん、どんなふうに変わりたい?」
「え?」
「そうか、具体的に言った方がいいね。宝ちゃんが人生変えるためにやってみたいこと、10個教えて。今までできなかったこととか、あきらめてたこととか?オレが協力する。金がかかることでもいいよ」
「???」
― この人は何を言ってるんだろう?
宝の脳内がどんどん「?」だらけになっていく。その時。
「あーやっぱ雄大さん、いた!あれ?さっきのお姉さんだ!」
近づいてきたのは、あの美しい顔の人だった。
「えー!なになに、お姉さん、雄大くんの友達だったの?」
「……友達じゃ、ないですけど…」
「だいきこそ、宝ちゃんと知り合い?」
「うん、さっき知り合った。オレ、だいきです。大きいに輝くって書いて、大輝。雄大さんにくっついて回ってるから、この辺りじゃ【大大兄弟】って呼ばれてます。よろしくです」
そう言うと、大輝は宝の手をとり、チュッと手の甲にキスをした。
あっけにとられてフリーズした宝。お前、そのうちセクハラで訴えられるぞ、とあきれた雄大。そして、奥の部屋ですやすやと眠っていた愛。
4人の大人の青春は、この夜、こうして始まった。
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