2011.04.21
散歩のついでに行く? 東京散歩ごはん Vol.6dining
銀座
皿から皿を渡り歩く、コースという散歩
銀座らしさを象徴する風景のひとつに、街区を抜ける細い路地がある。興味のままに足を踏み入れると、思いもよらぬ良店に出合うこともしばしばだが、中央通りから金春通りへと抜ける路地のビル地下にひっそり佇む『銀座 藤田』も、そんな“発見”の喜びを感じさせてくれる店であろう。
店主の藤田一休氏は、虎ノ門の鮨店『緑山』で13年間、料理長として腕を揮った人物だ。昨年、満を持して開店させた自身の店では、鮨のみならず、和食の経験を生かした一品料理から、なんと、魚や野菜の天ぷらまでも組み込んだコース料理を供することに決めた。
「タブーだと言う人もいるかもしれないけれど、挑戦なくして発展はないですから」と藤田氏。
心まで美味に満たされた帰り道、幸福な余韻を感じながら、銀座の夜を歩くのも悪くない。
自宅から自転車で10分か15分。鎌倉駅の駐輪場にママチャリを置いたら、駅東口から徒歩3分ほどの鎌倉市農協連即売所に、急ぐ。
『ベージュ アラン・デュカス東京』総料理長・小島景氏の、いつもの日常だ。この市場に通い、既に10数年。ニース、モナコでの修業中に野菜に開眼した彼にとって、生まれ育った街に農家が直接販売を行うこの場所があることは、幸福な運命だったのだろう。
市場は正月三が日を除き、毎日開く。4班に分かれた農家がローテーションで毎日、出店するここへ、店で使う野菜を買いに彼もまた毎日、やって来る。『ビストロ・ブノワ』料理長時代から現在まで、買った野菜を大きなバッグに詰め込み、それらが傷まぬよう大事に、でも迅速に店へと急ぐ。
鎌倉から銀座の店まで、約1時間半弱。その間ひとりじっくりと、今日の料理に思いを馳せる。市場では農家さんたちと、多くを話すわけではない。だがニースから持ち帰った種を渡して栽培を依頼したり、時には自分の求める発育状態の野菜を畑で収穫させてもらうなど、その関係性は深い。
一見、とっつきにくく、氷解するととたんに子犬のように眼を輝かせる彼の、野菜や料理への情熱に、誰もが巻き込まれていく。だから市場の客が農家さんに目新しい野菜の食べ方を聞くと、時にこんな風に言われる。
「あのシェフに聞いたらいいよ」
視線の先には、彼がいる。
店で、皿を仕立てながら言う。
「春のイメージは僕にとっては緑。だからメバルには、鎌倉で買ったふだん草とボリジを添えました」
その後野菜について問うても、浪々と牛ランプ肉の旨さを語るシェフ。時々、あまのじゃくなこの人はわざとそんなことをする。
自分が休日でも店に送る野菜を買いに、彼はやはり市場へと向かう。帰りのママチャリの籠には、市場で求めた妻のための花がひと束。そんな日も、たまにある。
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