お姫様のリベンジ Vol.1

お姫様のリベンジ:高校の同窓会。さえなかった男たちのハイスペ化を見た29歳女は…

けれど、直人の最もタチが悪いポイントは、ダメ男であったことではない。

ギャンブル狂いでも、定職につかなくても、直人は杏奈に対しては優しい男だったのだ。

消費者金融に借金してプレゼントをしてくれるような人だった。

毎日杏奈を『可愛い』と褒めたたえ、彼といると荷物を持つことはなかったくらいのお姫様扱いをしてくれた。

それが、ダラダラと交際を10年近く続けてしまっていた理由である。




「女性がパートナーを養ってもいい時代よ。私が引っ張っていこうと思ってきたけど、疲れちゃって」

「……なるほど、そういうことがあったのね」

そう相づちを打つのは、数少ない同級生女子の麻沙美だ。

10年ぶりに再会するなり直人のことを尋ねられた杏奈は、広間の隅の椅子に陣取り、麻沙美に向かって事の経緯を語る。

「自分の選択は間違えてない。そう思い込みたかったの。結果、貴重な時間を無駄にしちゃった」

「よく決断したね。でも杏奈は有名人だし、これからは引く手あまたのはず」

「有名人、ってそんな…」

杏奈は現在、勤務している医薬品メーカーでは広報を務めている。

会社の広告塔としてSNSやメディアに登場する機会も多々あり、巷では“美人広報”として名が知られているのだ。

「でも無理やりにでも誘ってよかった。多少の気晴らしにはなったでしょ?」

麻沙美の言葉に、杏奈の心はほのかに和らいだ。

実は、直人との別れという失恋の傷もあり、今回のこのパーティーにはもともと来るつもりはなかったのだ。

しかし、麻沙美からの「久々に会いたい」という強引な連絡で、重い腰を上げた経緯がある。

そもそも麻沙美とは、年賀状をやり取りする程度の仲だ。他の同級生と同様に、卒業以来疎遠な関係になっていた。

見た目は地味で、真面目で積極的な麻沙美。華やかなルックスの割に、のんびり屋で一歩引いた性格の杏奈。

そんな違いがあるふたりの間には、相いれない部分がある…。杏奈はずっと、そんなふうに感じていたのだ。

杏奈にとって数少ない女子の同級生同士ということもあり、高校時代は半ば惰性で一緒にいたようにも思っていた。

けれど、月日を経てこうして再会した今。杏奈は不思議と、麻沙美に対して女子同士にしか見えない絆の存在を確認できたような気もする。

「ありがとう…ちょっと落ち着いたよ」

杏奈がそう微笑んだとき、麻沙美の名を呼ぶ男性の声がした。

「あ、夫がきた」

「夫?」

「杏奈も知っている人よ。仕事のミーティングが長引いちゃったみたいで」

麻沙美は受付に彼を迎えに行き、腕を組んで再び杏奈のもとへ戻ってくる。

「お久しぶり、杏奈さん…って、俺のことは覚えてないか」

「タンクだよ、タンク」

「ええっ!!まさか…?」


杏奈は思わず声を上げた。目の前にいる『タンク』こと、古野拓哉。

彼は高校時代はそのあだ名の通り、短躯でぽっちゃり体型の、陰キャな眼鏡男だったはず。

だけど今、麻沙美の横に立っている男は、筋肉質でありながらもスラリとした体形のビジネスマンだ。

「地元の成人式で再会して、付き合いだしたの。別れて戻ってを2回くらい繰り返したのかな?で、去年ゴールイン」

「色々あったけど、駐在もあったし、多忙だったからさ」

タンクはいま、商社に勤めているのだという。住まいは中央区の高層マンション。先日は休暇を取りヨーロッパ周遊旅行にふたりで行ってきたのだとか。

「もぉ、それだけじゃないでしょ〜?」

くだけた言葉でじゃれ合い、見るからに幸せそうなふたり。

焦燥感とも嫉妬とも違う、モヤモヤした情けなさに杏奈は包まれた。

「…すごい、タンク。シュッとした上に、大出世したんだね」

思わず杏奈が正直につぶやくと、麻沙美は謙遜するように笑った。

「え、でもここにいるみんな、全員そんな感じでしょう。直人君がちょっと特別だっただけよ」

確かに、杏奈が同級生男子から連絡先として渡された名刺には、そうそうたる企業名や肩書が書かれていた。

まさに、『逃した魚は大きい』──そんなことわざが身に染みるようだ。

こんなに素敵な人たちを、過去の自分は平気で見過ごしていた。見た目しか見ずに人を選んでしまった、当時の自分の浅はかさをを突きつけられる。

「杏奈さん、ちょっとお話できるかな?」

恩師の元に夫婦で挨拶に行った麻沙美に置き去りにされ、ひとりでいる杏奈の元に、先ほどとは別の男子たちが寄ってきた。

彼らもまた、ブランドもののスーツに身を固め、重量感あるウォッチを身に着けた見るからにエリートだ。

「…もちろん!」

杏奈の胸の内に、得体の知れない火がつく。

― 恋人選び…リベンジしても、いいよね?

元・学園のアイドル。そして現在はメディアにも顔を出す美人広報。

このままでは終われない。

そう思った杏奈は、輪の中心へと一歩踏み出す。

過去の自分が無下に打ち捨てた、輝かしい男性たちを…もう一度、捕まえるために。


▶他にも:大親友の彼氏と結婚した女。「略奪したわけじゃない」と言い訳しつつも、合わせる顔がなく…

▶Next:11月28日 火曜更新予定
顔だけで選んでしまった…過去の浅はかな男選びを悔いた杏奈は行動を起こす。

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この記事へのコメント

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No Name
また共感も応援も出来そうにない主人公。
2023/11/21 05:3133
No Name
麻沙美、タンクと今の勝ち組生活を見せつけるために杏奈を熱心に誘ったのかな
2023/11/21 07:0032
No Name
消費者金融からの借金も有るとてつもないダメンズと10年も? お姫様扱いされてたからとは言えあり得ないと思う。王子様はお姫様を置いてふらっとインドに行ってしまいましたとさ。
2023/11/21 05:4224返信2件
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