都内に居を移した恩師の希望で、東京で開催されたこのパーティー。地方進学校出身で首都圏に根を張り、そのうえ、同窓会的な集まりに胸を張って参加できるものは、ほとんどが成功者だ。
医師、弁護士、経営者、マスコミ関係、外銀勤務、コンサル…。いずれも、華々しい肩書や大手上場企業勤務の者ばかり。
「え、それって、佐東直人と?なーんてね」
杏奈が告白した「彼氏と最近別れた」という話題に対し、例に漏れず成功者となった輪の中のひとりが、高校時代の彼女の恋人の名前を挙げた。
「うん。そうだよ。よく覚えているね」
彼としては、同窓会という場にふさわしい、ノスタルジックな冗談のつもりだったようだ。
しかし、杏奈からの思いがけない返事を耳にした男たちは、一様に目を丸くする。
卒業から10年以上。まさか、つい最近まで交際していたとは、思ってもみなかったのだろう。
「……マジ?杏奈さん、直人とずーっと付き合ってたってこと?」
佐東直人──元彼の直人(ナオト)は、東京から芸能事務所のスカウトがやってくるほど容姿が良く、学内のミスターコンでは3年連続1位にもなった男だった。
高校3年の冬、どんな男にもなびかなかった杏奈に告白し、その牙城を崩した。男子たちの間では、今でも伝説になっているのだという。
― 本当に、当時はステキだったのよ。クラスは違ったけど、実はひそかに気になっていた人だった。だから…。
杏奈は、彼と交際し始めたときの回想に、後悔が並行する。
実は直人は、ふたを開けてみれば、とてつもないクズ男だったのだ。
◆
高校卒業後。杏奈と直人は共に上京し、杏奈はお茶の水女子大学に、直人は早稲田大学に入学した。互いにキャンパスライフを楽しみながら、学生時代はデートを重ねる程度の幸せな交際が続いていた。
その後、杏奈は外資系医薬品メーカーに、直人は広告代理店に就職が決まった。…そこまではよかった。
多忙によるすれ違いを避けるため、同棲し始めたのが間違いだった。いや、正解だった、と言えるのかもしれない。
とにかく、生活を共にしていくうちに、直人のボロがどんどん出始めたのだ。
まず、借金があることが判明した。
趣味がギャンブルであることは以前から理解していたが、朝からパチンコ店に並んだり、有馬記念やダービーに十万単位を突っ込むレベルだとは想像もしていなかった。
就職した代理店は1年で退職。その後はベンチャー系企業を転々とし、ここ数年はアルバイトを繰り返していた。
必死に頑張ってその状態ならまだ応援できるが、直人はそんな生活に一切の危機感を持つことをしなかった。
手元にお金ができたらギャンブルや旅行などの遊興に使う。最近はスパイス系カレーにハマり、聞いたことのない名前のスパイスや何十万もする調理用具を買いそろえる。
しまいには、
「しばらく、インドに行ってくる」
と、旅立ちの前日、相談もせずに告げられたのだ。
「いつ帰ってくるか?さぁね、風に聞いてほしいな」
杏奈の堪忍袋の緒が切れたのは言うまでもない。
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