『ヒロキ:久しぶり。笑』
ヒロキからのメッセージに、胸が高鳴る。ちゃんと覚えてくれていたんだ、と嬉しくなってしまう自分に呆れながら、私はメッセージを送る。
私が送ったメッセージの宛先はヒロキではなく、香澄だった。
『未来:彼は、やめておいた方がいいよ』
…ヒロキとは、1年前にマッチングアプリで知り合った。男女の関係だったなんて、香澄には絶対言えない。
それに、ヒロキは平凡な香澄の手に負えるような男ではないのだ。
女友達が異常に多く、その人たちとの距離感も理解できないほど近いし、息をするように嘘をつく。
私でさえ彼女になれずに、2ヶ月で関係を絶った。
『香澄:どうして?もしかして、ヒロキと知り合いなの?』
『未来:香澄が傷つくのを見たくないから。ごめん、今日は帰るね』
私は、そのまま店を出た。
認めたくなかったのだ。私は彼女になれなかったのに、香澄はヒロキと付き合えている事実を。
恵比寿の西口からタクシーに乗ると、またヒロキからメッセージが来ていた。
『ヒロキ:なんで帰ったの?』
『未来:いやいや、気まずいからだよ』
『ヒロキ:そっか。なんかごめんね』
そのまま返事をせずにいると、再びスマホが震える。
『ヒロキ:まだ池尻に住んでるよね?1時間後に行ってもいい?』
◆
1時間後、ヒロキは、本当に私の家にやって来た。
「香澄は?」
「なんだかすごく酔ってたからタクシーで帰したよ」
「一緒にいなくていいの?」
「うん。いつでも会えるし」
久しぶりに聞く彼の声や変わらない匂いに、なんだか泣きそうになる。
「ワインあるけど飲む?それともビール?」
私が聞くと、彼は首を振った。
「水くれる?」
― なんでヒロキは家に来たんだろう、なんで私は家にあげたんだろう。
そんな頭の中の声を必死に掻き消し、水の入ったグラスを片手にヒロキが座っているソファに腰を下ろす。
「未来、可愛くなったね。痩せたでしょ」
ヒロキの大きな手が私の頭を撫でる。
彼は、私に恋人がいるのかなんて聞かない。
わざわざ池尻大橋まで来るくせに、そこに住んでいる女の男関係に興味はないのだ。
「ベッド行く?」
彼に抱き寄せられ、私は自分から誘ってしまった。
「いいよ」
◆
そして午前2時。
ヒロキは、私とベッドで過ごしたあと、朝を迎えることなく「帰る」と言い出した。
もしかしたら、香澄じゃなく私を選んでくれるかもだなんて、ちょっとでも期待してしまった自分が情けない。
「あ!私、今週も来週もいつでも空いてるから」
必死になってしまった自分が惨めだ。
「そんなに焦らなくても、また来るよ」
そう言い残して私の家を出たが、私たちが頻繁に会うことは、もうきっとない。
ヒロキは、私とたまたま再会したドラマのような展開が、面白かっただけなのだろう。
私にとっては非日常でも、ヒロキにとっては、よくあること。
彼の匂いが残ったシーツの上に再び寝転ぶと、香澄からメッセージが来ていた。
『香澄:未来、ヒロキと連絡取れないんだけど何か知ってる?』
― 香澄…。
私は、迷いに迷って、彼女に本当のことを伝えることにした。
『未来:ごめん。実は、以前から彼のこと知っていて、昨夜、少し話してた』
これで、香澄との友情は終わるかもしれないし、ヒロキにも会えなくなるだろう。
気づくと、涙が頬を伝っていた。
私はヒロキのことが好きで、あの2ヶ月間は本気で恋愛していた。
だから、今日だって、ヒロキが私のところに戻ってきてくれるんじゃないかって、心のどこかで期待していた。
本気じゃなきゃ、友達の彼氏に手は出さない。でも、最低なことをしたのは私。私が2人から離れるべきなのだ。
私は、心の中で香澄に謝りながら、ヒロキのLINEをブロックした。
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男が冴えない元カノとの密会を続けるワケ
この記事へのコメント
未来も自分は大手で働いてるが香澄は子会社勤務だとか全て平凡だから一緒にいると安心するとか、酷い😂
このタイトル、未来のことなのか。 未来は都合のいい女止まりで香澄はとりあえずの彼女という感じ。両者ともヒロキの本命ではないと思うしこんな不誠実な男と付き合いたくないけど!笑