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  • 銀座のレストランで行われた秘密のイベント。富ある愛好家が好む「1滴1万円以上」の“あるお酒”とは

    『ハイランドパーク 54年』のボトルが、ついにお目見え


    次の部屋「サンクチュアリ」は、前室の険しい風景から一変し、草花で彩られ、木漏れ日の中で穏やかさを感じさせる空間。

    目に映るのは、プリムローズやコケ、そして先ほどの「エレメント」で映し出されていた紫色の花。


    これはヘザーという低木の植物の造花。ヘザーは毎年8月ごろになると花を咲かせ、オークニー諸島の荒涼とした大地一面を紫色に染めあげる。

    辺りには甘く優しい、上品な香りが漂うという。

    この可憐な花を咲かせるヘザーが、実はハイランドパークのウイスキーにとって欠かせない存在であることを知ったのは、ウェルカムドリンクを口にした瞬間だった。


    それは、ほのかに漂う甘い花の香りと、爽やかな甘酸っぱい味わいが特徴的なハイボールカクテルだった。

    レシピはハイランドパーク12年と18年を混ぜ合わせ、パッションフルーツとマンゴー、そして味噌を発酵させて作ったシロップを炭酸で割ったもの。

    恐ろしく飲みやすく、美味しい。

    だがここで、あることに気づく…。「スコッチ特有とされる、あの磯臭さが少しも感じられない」と。

    その秘密はハイランドパーク特有の「ピート」にあった。

    「ピート」とは、野草や水生植物などが炭化した泥炭のことをいい、ウイスキーの原料となる麦芽をいぶす際に使われる燃料のこと。

    このピートでいぶすという工程を経ることで、ウイスキー特有のスモーキーさが生まれる。

    一般的なスコッチに使われるピートは海藻や貝殻といった海のエレメントが多く含まれるのに対し、ハイランドパークが使うピートには先のヘザーがふんだんに含まれているという。

    ゆえに、ハイランドパークのウイスキーは他のスコッチと違い、スモーキーな口当たりのなかにフローラルな香りが共存する。ウェルカムドリンクは、この特徴を生かしていたのだ。

    54年のボトルは、スコットランド産の最高級のオーク材を使用した化粧箱に包まれている


    では、もっと長い年月をかけて熟成させた『ハイランドパーク 54年』は、一体どんな味わいになるのかと期待は高まるばかりだが…。

    部屋の前方には、静かに佇む1本のボトルの姿があった。

    両開きの化粧箱を開けると、琥珀色のボトルが!


    ついに1本800万円もする『ハイランドパーク 54年』のお目見えである。

    ボトルを包む両開きの化粧箱はスコットランド産の最高級のオーク材を使用し、デザインはメインランド島にある「イェスナビーの断崖」からインスピレーションを得ている。

    1つひとつ作られたハンドメイド作品で、2つと同じ物はないという。

    もちろん「54」の数字が刻印された重厚感あるガラス製のボトルも、今回のために特別にデザインされたハンドメイドだ。

    そして、ボトルの中の琥珀色を通り越した“あずき色”に見惚れていると、グローバルブランドアンバサダーであるマーティン・マークバードセン氏の登場でイベントは幕を開けた。


    ブランドアンバサダーが語る『ハイランドバーク 54年』の凄み

    グローバルブランドアンバサダーのマーティン・マークバードセン氏


    マーティン氏のスピーチで印象的だったのは、225年という長い年月を経ても受け継がれている同蒸溜所ならではの製法だった。

    「現在は多くの蒸溜所がモルティング(大麦を発芽させる工程)を機械化するなかで、ハイランドパークはいまだに人の手で発芽させる“フロアモルティング”という手法にこだわっています。

    週7日、8時間おきに床に敷き詰めた大麦をスコップで突き返し、空気に触れさせます。これは大変骨の折れる仕事ですが、いぶす際のピートの吸収の仕方にも影響します。

    また原酒を熟成させるオーク樽の産地にもこだわり、シェリーで2年間熟成させた樽だけを使用し続けます」(マーティン氏)

    こうした妥協を許さない製法は、ウイスキーを愛する職人たちの思いあってこそ。幾度か経営者が変わっても、その情熱は今も昔も変わらないという。

    一方で気になったのは、果たして情熱だけで酒齢50年を超えるウイスキーを造ることができるのかということ。


    本来、ウイスキーの原酒を寝かせる樽は呼吸をするため、中身は徐々に蒸発していく。また、わずかに残った原酒も長い年月のなかで“樽負け”(樽の香りが付きすぎてしまう状態)してしまうため、世に出ることは稀だ。

    ウイスキー造りにおいて酒齢50年の壁の先にあるのは、何十年という歳月が1年、いや1日で無になってもおかしくないセンシティブな世界。

    それでも今回、ハイランドパークが酒齢50年を上回る「54年」のウイスキーを225本もリリースできたのはなぜか。

    そのヒントは、マーティン氏が挨拶の最後に触れた内容にあった。

    「オークニー諸島は、スコットランドの他の地域とは全く違う気候になっている。冬もだいたい8℃くらいで雪が降ることもなく、夏も涼しくて過ごしやすいんです」

    風も強く厳しい自然環境に晒されるオークニー諸島だが、実は1年を通じて気温差が小さくて冷涼な気候が続く、非常に珍しい場所。

    おかげで原酒を熟成させる樽の呼吸は、他の地域よりも穏やかになり、蒸発量が少なくなるので“樽負け”もしにくいのだそうだ。

    思わず傍らに佇む「54年」ボトルに目を向けずにはいられなかった。まさに人智を超えた“奇跡”がそこにはあったのだ。

    そして、イベントはいよいよ…
    『ハイランドパーク 54年』試飲のときへと近づいていく。

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