2022年4月からパワハラ防止措置の義務化が大企業だけでなく、中小企業にも適用され1年が経った。
普段、職場上司の指示・指導方法に抱く不満。
それが果たしてハラスメントに当たるのかどうかの判断は難しい。
最終回では、ハラスメント窓口の担当者が取り扱う複数の案件からハラスメントの闇を紐解いていく。
※この物語は実話を元にしています。※人物名は仮名です。
監修/株式会社インプレッション・ラーニング
代表取締役 藤山 晴久
取材・文/風間文子
前回は:「性的な噂」を飲みの席で話したことがセクハラ問題に発展!果たして、結末は?
INDEX
1. なぜ職場のハラスメントはなくならないのか
2. ◯◯ができない人はハラスメント傾向あり!?
3. 軽い気持ちでの行為が“最悪の結果”を招くことも…
なぜ職場のハラスメントはなくならないのか
「え、君の友人がうつ病に?」
「そうなんです。都市銀行グループ本社の法務部で働いている向井小春って子なんですけど、私と同じハラスメント相談窓口の担当をしていて、そこでやられてしまったみたいです」
ある秋晴れの日、僕は葉山さおり(32歳)と事務所近くのカフェでお茶をしていた。
彼女とは数ヶ月前に仕事を機に知り合ったが、最近はこうして僕をお茶に誘う。会ったところで、世間話をしているだけなのだが。もしかすると、彼女はよほど暇なのか、それとも友人がいないのか…。
「君は同じハラスメントの窓口担当者なのに、私なんかと呑気にスイーツを食べに来ている。この違いはなんでしょうね?」
僕がそうからかうと、彼女はムキになって否定した。
「今日はたまたま有給休暇を消化しているだけで、私だってやることはやってますよ!」
その時、僕には葉山が何か別のことも口にしたように聞こえた。
「これだけ誘っているのに私の気持ちに気づかないなんて、小五郎さんの鈍感!」
「あれ、いま僕の名を口にしました?」
「いやいや、誰も小五郎さんの名前なんて口にしてないですよ〜」
慌てる葉山は明らかに様子が変だったが、僕はいつまでも彼女に構っていられなかった。なぜなら目の前に苺のショートケーキが来たからだ。
「スイーツの種類は数あれど、やはり、このシンプルさが一番かもしれない。さぁ、食べましょう」
そう、僕は甘い物に目がないのだ。葉山も満更でもなさそうだ。
ただ、時折、浮かない表情が見えた。
「…病気になった友人のことが、心配ですか?」
僕がそう問いかけると、彼女は手を止め、迷った末にうなずいた。
「ええ。友人は心配ないと言っているんですが、彼女のことを考えるとやはり心配で…。それに、どうしてもわからないことがあるんです。
彼女の勤務先ではハラスメント研修を何度もやっている。それなのに、どうしてハラスメントってなくならないんですか?」
その疑問に対する答えは一言では語り尽くせるものではなかった。僕はしばし天井を見上げ、彼女に向き合った。
「自分は無縁だって思っている君だって、ハラスメントの行為者側になる可能性はゼロではないかもしれませんよ」
「え、どういうことですか?」
葉山が納得しないのは当然だろう。
「実はね、これまで僕が関わってきた企業のハラスメント案件を整理すると、行為者にはある傾向が見えてくるんです」