ビフォア『エル・ブリ』。料理が料理らしく、素材が原型をとどめながらも、エスプリが発揮されていた時代。輝かしい80’ S~90’ Sのフランス料理を体現する名店『ル・マノワール・ダスティン』五十嵐安雄オーナーシェフの元からは、たくさんの名シェフが旅立ち、成功を収めている。
その流れを汲む湯澤貴博シェフが、今春ついに独立を果たした。『アンフォール』を含め、シェフ歴約7年。店そのものは初々しいが、シェフとしては安定感を誇り、メニューも完成の域に達したものばかりだ。また、そうでなくては技量の善し悪しをしっかり見られてしまうカウンターを上座とする店造りはできない。
シェフになりたての夏に考案したという「和歌山産アユ100%のテリーヌ、メロンと胡瓜、清流を泳ぐイメージで」は水泡を思わせるガラスの器といい、練りに練られた逸品だ。
鮎の皮の香りにメロンや胡瓜のニュアンスがあることから発想して素材を組み合わせたのだとか。テリーヌを口に含めば、鮎のワタの風味が上品に生かされている。師匠、五十嵐シェフ譲りなのか。臓物使いの巧みさに、また舌を巻いてしまう。
加えて、夜8時半から始まるバータイムには嬉しいことにアラカルトでの注文も可能になる。手打ちの生パスタやリゾットなど、気楽なメニューも楽しめる。というわけで、しっかりコースの食事からサク飲みまで、幅広く使えるレストランが誕生した。
予約が取れなくなるレストラン 【新時代の若手】編
ひたすらに技術を磨き、師の背中を追い続けた日々が過ぎ、今、蕾が花開く。 一体どんな花を咲かせるか? 楽しみな新芽ばかり。大輪の開花はもう間もなく。
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