離婚から2年が過ぎ…
「2人とも久しぶりー!元気だった?」
「真子さん、久しぶりです!」
沙耶香は、昼休みに大学時代のゴルフサークルの仲間・真子と由梨と渋谷にある『ドンシー 亜細亜香辛料理店』にランチに来た。
真子は普段大手町にある大手商社で働いているが、渋谷に用事があったので、近くで働く沙耶香と由梨に声をかけたのだ。
2年前にみんなで再会したとき、3人ともシングルマザーや離婚直前だということがわかり、さらに仲が深まった。
彼女たちが、離婚をオープンに語っていて『東京ではシンママでも生きやすいかも』と沙耶香は、気持ちが楽になったのをよく覚えている。
「真子さん、それでどうしたんですか?報告があるって言ってましたけど…」
口いっぱいに肉汁の広がる柔らかいチャーシューを食べながら、沙耶香が尋ねる。
「それがね…」
真子は、一息つくと、わざとらしく左手をゆっくりと顔の横にピンと立て、婚約指輪のついた薬指を2人に見せた。
「え!?もしかして…再婚ですか?」
「わー、本当?おめでとうございますー!」
「ふふ、ありがとう」
真子は、沙耶香と由梨の2つ上の先輩で今年36歳。3歳と5歳の男の子のママだ。
真子と会うのは半年ぶりだが、彼女に彼氏がいたことさえ、2人は知らなかった。
「いつ彼氏ができたんですか?聞いてないですよー」
「実は、付き合って4ヶ月しか経ってないの。婚活サイトで出会ったのよ」
真子の返答に、沙耶香と由梨は「へー」と素直に驚く。
すると由梨が、ストレートに聞いた。
「スピード婚って、怖くないですか?子どもと相手の相性とか。オンラインの出会いは珍しくないけど、でも、子どもがいるとどうしても慎重になっちゃって…」
「私もさ、そう思ってた。だけど、彼と子どもたちを会わせたときに、すごくしっくりきたの。元から家族だったみたいに」
真子が離婚した理由は、元夫の浮気。彼がある日、浮気相手に子どもができたからと、突然家を出て行ったのだ。
バリキャリの真子は「もう男なんて信じないし必要ない」と言っていたが、出会いは人を変えるものだ、と沙耶香は感心する。
「ねぇ、2人は?いい人はいないの?」
「いや、私はもう結婚とか恋愛とかはいいです。今は子育てと仕事で精いっぱいなので…」
沙耶香がそう答え切らないうちに、真子は前のめりに「でもね」と話を遮った。
「沙耶ちゃんも由梨ちゃんも、もう34歳でしょう?再婚市場だってね、若さって大事なのよ。それにね…」
少し前までは“同じ側”の人間として、真子も2人と仲良くしていたのに、いきなり“向こう側”に行ったような口振りに、沙耶香は少し違和感を感じる。
けれど、由梨は真子の話を熱心に聞いた。
「再婚は、子どもが小さいうちが鍵よ。思春期になっちゃうと、なかなかお互いに新しい家族を受け入れづらくなるから。2人とも、勝負は今よ!子どもが小学校高学年くらいになっちゃうと、大学生になるまで難しくなるわよ」
「えー、やっぱりそうですよね…。子どもが小さいから再婚活するのは無理かなって思ってましたけど、逆なんですね…」
由梨は考え込むように黙ってしまった。
「最近では親子で参加できる婚活パーティーとかもあるのよ。子どもと一緒にクッキングしたりバーベキューしたり。人生一度きりなんだから!まだ若いんだし、女を諦めたらもったいないわよ。今度2人で行ってみるといいわ」
「へぇ、楽しそう!それならうちのヤンチャ坊主も参加できるかも」
真子が得意げに語るアドバイスを、真剣に聞いている由梨の横で、沙耶香は人ごとのように聞き流していた。
この記事へのコメント
こんなジャンクな集まりによく申し込んだな😂