2023.07.11
オトナの5分読書 Vol.1①「英語は楽しい」という経験をさせる
海外大学を志向する人たちなら、幼い頃から習い事などで英語に触れていたのかと想像していたが、意外なことに「中学のABCからスタート」というケースが大半だった。
一方、習い事を通じて英語に早くから触れていた人たちにとっては、英語力そのものより、楽しい思い出や海外に対する憧れなど、習い事が英語に対するポジティブな動機づけになっていた。
カリフォルニア大学バークレー校を卒業した幸田優衣さんは、「小学校の時に家の近くにあったECCジュニアの教室は、自分にとって夢の世界だった。海外とは無縁の世界だったので、そこは初めての海外の文化との接点だった」といっている。
つまり、大事なのは、幼少期に英語嫌いになるような体験をさせないこと。
英語力を身につけさせようと親や周りの大人が熱くなりすぎると、かえって英語嫌いを増長させる可能性がある。
第二言語習得の専門家である宮城教育大学の鈴木渉教授は、子どもの英語習得を促すには、保護者が子どもと一緒に英語の絵本を読むこと、楽しむことを勧めている(『英語学習の科学』)。
また、鈴木教授は、子どもが英語に興味を示さない場合には、一緒に海外アニメやドラマを見たり、英語村や海外旅行に出かけたり、英語話者との交流の機会を設けたりするなど、子どもが海外に関心を持つような工夫をその子に合った形で実現することが重要だといっている。
②英語は「欠かせないもの」と感じる環境を与える
海外の大学に行くためには、TOEFLなど世界を土俵にした英語の試験でスコアを上げることが必須だ。
そのために相当な努力が必要だが、自分自身の中から湧き上がるモチベーションがなければ、高い目標に向かって地道な努力は続けられない。
そのモチベーションは、海外への憧れというポジティブな感情だけではなく「英語なしでは前に進めない」「どうしても英語が必要だ」と感じる環境が、必要な場合もある。
例えば、オレゴン大学を卒業した小此木さんは、高校2年生の夏に訪れたアメリカでのサマーキャンプでの体験がアメリカの大学を目指すきっかけになった。
「当時『ビバリーヒルズ青春白書』っていうドラマにハマっていて、その撮影場所の大学に行けるというので、ちょっと行ってみたいなぐらいの気持ちで参加しました。世界各地から同世代が集まって1ヶ月ほど一緒に過ごすプログラムだったのですが、日本人だけが会話の輪に入れていなかったんです。
それを見て『ヤバいな』って思って。将来、グローバル化が進んで、日本だけじゃなくて海外でも仕事をしなきゃいけなくなった時に、このまま日本で教育を受け続けてもダメだろうなぁと」
中高時代に海外から日本を客観視する経験をすることで、これまで当たり前だと思っていた価値観が揺さぶられて、日本の大学以外に進学する選択肢があることに気付くこともある。
第二言語習得の専門家で、早稲田大学の原田哲男教授によると、最新の第二言語習得論では、こうした英語を学ぶ上での「動機づけ」に関する研究が大きく進歩しているそうだ。
「最近の動機づけの理論では、第二言語を使う理想的な自分を具体的にイメージできる学習者ほど第二言語学習における動機づけが高いと考えられている。(中略)
英語力の向上には、将来の具体的なイメージを持てるかどうか、それが本人の内面からの要求であるかどうかがとても重要なのです」
③やり抜く力(GRIT)を育てる
英語力という点では圧倒的に不利な、母語ではない第二言語での海外大学への挑戦は、英語のテストも、出願に求められるエッセイ(小論文)も、そう簡単に目指すレベルには仕上がりません。
何十回と練習したり、書き直したりすることにも挫けない粘り強さと情熱、やり抜く力(GRIT)が求められる。
そもそも、出願の時点から、必要な情報は自分で大学にコンタクトをとってコミュニケーションをとる能力が求められ、一筋縄ではいかない問題がしょっちゅう発生する。
その都度、頼みごとや交渉事を自分ですべて背負わなければなりません。
本書の中で紹介されているアメリカのリベラルアーツ大学を経てイェール大学院を卒業した砂山智美さんは、幼い頃母親からよく、「別にまちがえることは悪いことじゃないんだよ」と言われていたそうだ。
「中学では文法知識がこんがらがってしまって、英語は苦手でした。でもテストで良い点が取れなくても、私の母は『間違えたところを見直してできるようになればいい』といつも言ってくれたんです。
決して結果で評価することはなく、失敗もいい経験だと言ってくれる親だったから物理学者になりたいとかアメリカに行きたいとか、ハードルが高い進路選択でも情熱を失わず粘り強く前向きにやっていけたのかなって思います」
こうした数値では測れない粘り強さや、失敗してもめげない前向きさが第二言語習得とどう関係するかの研究は始まったばかり。
この点について加藤氏は、脳神経科学の知見から専門家の青砥瑞人さんにも詳しく取材をしている。
だが、ここまでに紹介した多くの海外大生へのインタビューを見る限り、英語力向上には「粘り強さや前向きさ」という姿勢が、大きく影響しているのではないだろうか。
今回紹介した、『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』のすごいところは下記に集約される。
① 海外の大学に進学した人への取材と脳科学者などの専門家の意見をもとに、具体的かつ科学的に英語を学ぶ方法が提示されている。
② 海外留学にかかるお金の話やそのお金をどうやって工面するのか、といった策まで書いてあり実用的。
③ 留学がゴールではなく、英語や留学経験がどう進路に影響するのかまでわかる!
④ 「英語を学ぶのに遅いということはない、私にもできる!」とポジティブな気持ちになれる。
著者 加藤紀子氏 教育ライター/ジャーナリスト
京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。
帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。
現在は教育情報サイト「リセマム」の編集長を務める。
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