2012.05.21
オフィス街 ランチの名店グランプリ Vol.2赤坂
懐の深い街には
魚上手の腕利き料理人がいる
かつてはブルジョワの邸宅が立ち並び、やがて銀座に負けない高級繁華街として発展した赤坂。高級料亭や老舗料理店、小体な優良店がひしめく花街でもある。
舌の肥えた大人が出入りするせいか、この街にはなぜかひょっこりと魚の旨い店が隠れている。それも和食だけには留まらず、イタリアンやフレンチもしかり。見逃してしまいそうな奥ゆかしい入口の奥に、腕の立つ料理人がひしめいているのだ。路地の奥の迷宮で、自分の舌を頼りに旨いもの探し。それこそ、赤坂の楽しみというものではないか。
オステルリーとは欧州のフランス語圏にある食事を提供する旅籠を表すという。この店に宿泊施設はないが、店名には、郷土色にあふれたオステルリーのように温かくもてなしたいという願いが込められている。
料理はどれも一見してクラシック。しかし緻密な作業による磨き上げられたエレガントさ、火入れの丁寧さが際立ち、ソースとの調和が美しい。「お店の雰囲気はカジュアルに、でも料理はレストランでありたかった」というセリフが、味わうごとに説得力を持って実感できる。そして、フランスの名店「ラ・コートドール」で、シェフ・ド・ポワソンを務めたというシェフ鈴木亨さんは、やはり魚に対して思い入れが深い。
昼の魚料理は「シェフ特製ランチ」で。この日の築地直送の魚料理は皮目がパリッと香ばしく焼けた金目鯛のグリエ。ボリュームも完成度もディナーの一皿に負けていない。これに迫力のポーションの前菜とデザートビュッフェがつくという充実ぶりだ。小さな店の秘めたる実力をランチで垣間見るのも、赤坂という街の奥の深さだ。
料理長の田中勝さんが惚れ込んだ四国松山から直送する魚、厳選した野菜や特選黒毛和牛。旬の食材をお客のリクエストで自由に食べてもらいたい。そんなフリースタイルがいかにも大人の街・赤坂らしい和食店だ。
料理の味付けは京風。出汁の基本は水の違いにこそ出ると、わざわざ大分から軟水を取り寄せるこだわりよう。その滋味深い出汁はランチにも惜しまずに使われる。ランチ名物の「金目鯛の煮付け」は、目の前で土鍋のふたをパッと開け、ほかほかの湯気と香りに食欲がかき立てられるという趣向。
夜は接待使いの高級店の味を昼に格安で味わうことができる。これは赤坂という街で、ビジネスマンとして生きる特権かもしれない。
南イタリアといえば、思い描くのは紺碧の海。そして魚介料理の宝庫である。ここはそんな南イタリアの海岸地方の料理ひと筋。その徹底ぶりは、メニューに肉料理をいっさい置かないというほどだ。例えば、トリッパというメニューも実は「マグロの胃袋」という徹底ぶり、そしてこれが美味。
オーナーの服部優希さんは漁船を所有する現役漁師。目利きの服部さんが選んだ魚を、シェフが南イタリアのスピリットを最大限に伝える料理に仕立てる。このシンプルさこそ、素朴で豪快な南イタリア料理の王道。
Aランチでも、しばしば魚が一尾丸ごとドンと登場し、思わず目を見張る。盛りだくさんの前菜がついたCランチは食べごたえ十分。ビジネスランチにも重宝する内容だ。
この季節は涼やかな風が吹き抜ける広いテラスで、白ワインを傾けながらというのも魅力的だ。
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