東京は夢と希望にあふれている。
だから私は東京に行って、誰もがうらやむ幸せを手に入れる――。
そんな小さな野望を抱いて、東京に出てきた当時18歳の私。
東京は、噂に聞いていた通り、刺激があって楽しくて、自由で多様な生き方が認められる街だった。
一方で地元の友人たちは、早くに結婚し子どもを産み、20代で家を建てているのだけれど…。
◆
東京での毎日に疲れて泣きたくなったとき…。地元へ帰る?それとも、乗り越えて東京であがき続ける?
どん底に落ちた29歳が、選ぶ人生の道とは――。
Episode01:上京して10年・倉本桜の素直な気持ち
「へぇ。桜ちゃんって双子なの?」
『雪月花 銀座』のカウンター席。
あと数週間でクリスマスだというのに、私は、彼氏でもなんでもない中嶋という男性と食事をしている。
中嶋は、29歳の私より20歳も上だ。建築士として事務所を構えながら、不動産の会社経営もしている。
「うん。私が姉で、妹は地元の浜松にいるの」
― そんなことより、早くそのオレンジ色の紙袋を渡して。
私は床に目線を向けながら、シャンパンを一口飲んだ。
中嶋が店に入る時、彼はそれをスタッフに預けず、席の下に置いた。そのときから私は、その紙袋の中身が気になってならない。
期待してはいけないと思いながらも、袋の大きさからバッグかな?などと想像してしまう。
潤沢な資金がある中嶋のことだ。
バーキンやケリーじゃなくても、ピコタンあたりなら全然ありうる。
中嶋とは男女の仲ではないものの、私のことを気に入っているのは間違いないし、長い付き合いだ。
もうすぐクリスマスだし、そのくらいはもらってもバチは当たらないだろう。
「あ、桜ちゃん。これ忘れないうちに渡しておくね。大したものじゃないんだけど」
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