2023.01.23
東京タワマン族 Vol.1タワマン族と結婚する方法とは?
「そういえば佐々木のところ。シリーズBになったらしいんだけど…」
「よかったな。来年あたりイグジットかもな」
横文字ばかりの会話に、私はだんだんとついていけなくなる。その一方で、外資系投資銀行勤務のアリスはしっかりと会話に入っていた。
「玲二さんのご友人たちは、スタートアップ系の方が多いんですか?」
「そうだね。気づけばみんなそっち系かも。元々、渋谷にあるIT系企業の出身でさ。昔は一緒に働いてたんだよね~」
ちゃんと会話に入れているアリスと、入れない私。そしてまた、ほかの女性たちも同じように会話に入れずに手持ち無沙汰になっている。
― ああ。今の私、彼女たちと一緒だ。
すると、ふいにしょんぼりしている私たちが目に入ったのであろう玲二さんが、慌てて会話を振ってくれた。
「美月ちゃん、飲んでる?もしワインがよければあるよ」
「ありがとうございます♡じゃあ、いただこうかな」
そう言ってキッチンに行くついでに、私は洗い物をすることにした。さりげなく家庭的なところを見せれば、多少はポイントが高くなるかなと思ったから。
でもグラスを洗おうとすると、玲二さんが慌ててやって来て私の手を止める。
「美月ちゃん、いいよ!手が汚れちゃう。それに明日お掃除の人が来るから、置いといて」
― あれっ。私、この人にハマってない…?
男性に気に入られるのは難しいと言うけれど、私からすると簡単なことだと思っていた。
男性の褒めるべきポイントは押さえているし、同年代の男の子たちはさりげなく家庭的な部分や一途なところをアピールすれば、それなりになびいてきた。
でもタワマン族にはそれが通用しない。
むしろ、家のことはハウスキーパーの人がすればいい。それよりも誰かゲストが来たときに対等に会話できる、スマートな女性のほうが好まれる。
アリスはサバサバした性格だ。それに今日は私が玲二さん目当てだと知っている以上、絶対に彼へ色仕掛けすることもない。
その性格をわかっているからいいけれど…。もしアリスも婚活目的でこのホムパに参加していたら、惨敗だったと思った。
そしてこの部屋と同じように玲二さんはどこかサッパリしていて、決してグイグイとは来ない。
要は何を考えているのか、どことなく掴みにくい人だった。
「美月ちゃん、今日は来てくれてありがとう。楽しめた?」
会の終盤。ダイニングテーブルを囲んで話している人たちを横目に、私たちはソファに座り2人きりで話し込んでいた。
「とっても楽しかったです!ありがとうございました」
「また今度、ご飯行こうよ」
「いいですね、ぜひ!」
そう約束したけれど、果たして本当に誘いが来るのかどうかは疑問だった。
結局、23時前に会はお開きとなった。玲二さんが下の車寄せまで呼んでくれたタクシーに、私とアリスで乗り込む。
「美月、今日どうだった?玲二さんと何か進展はありそう?」
「楽しかったよ。でも私、彼にハマってないのかなと思った」
そう素直に伝えると、彼女はニヤッと笑った。
「まぁ、そんなときもあるよ。それよりさ…」
アリスが急に私の手を掴む。
「私、思ったんだけど。これからしばらく、タワマンホッピングしてみない?そこで出会いもあるだろうし」
「タワマンホッピング…?」
「そう。東京には無数にタワマンがあるでしょ?いろんなとこへ行って、そこに住んでいる人たちに出会って。美月は婚活ができるし、私は内覧も兼ねられるし。いいアイディアだと思うんだけど」
タワマン婚活。それは悪くない響きだった。
「いいね!って、ん…?私の婚活はわかるけど、アリスの内覧ってどういうこと?」
「私、年内にタワマン買おうかなと思って。投資としても良さそうだし」
「買うの!?さすがアリスだね」
「私は購入用の物件探し。美月は結婚相手探し。それぞれ目的があって、良くない?」
アリスの話す言葉には、説得力があった。
「いいね、それ!よし。年内中に終わらせられるよう、頑張ろう!」
こうして、私たちのタワマン巡りの旅が始まったのだった。
◆
結局この後、玲二さんとは二度ほど食事へ行ったものの…。「好きだ」とか「付き合おう」とかも言われず、自然と会わなくなってしまった。
― こういう人に好かれるためには、美貌に加えて知性も必要なのか。
スタイリッシュでお金もある。けれどどこか掴みどころがなく、何がハマるのかがわからない。
そんな、六本木一丁目在住・タワマン独身貴族男だった。
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