「日本人は最高だよ。言えばなんでもしてくれるし、従順だし、怒らないし。ただずっと黙って笑顔でいる都合のいい家政婦だよ。それにベッドの中でも…」
あまりの言われように驚いて女の子たちの顔を見ると、彼らが話している内容がわからないのか、変わらず微笑んで嬉しそうにしている。
その様子に、僕は昔の自分を思い出した。
デカい態度で僕を上から見下し、当然のように馬鹿にしてくるいじめっ子。
彼らに何も言い返せず、ただ俯いて逃げていた過去の自分。
しかし今日の僕は席を立ち、思わず彼らの方に近づいていった。
そして言葉を発しようとした瞬間、僕よりも一息早く、女性の声がした。
「ちょっと、気分が悪いわ!あなたたち、日本人の女性をなんだと思っているの!?」
僕の向い側の席にいた、スーツを着た日本人女性が立っている。
突然声をかけられた男たちは驚きながら「Huh?」とその日本人女性を睨みつける。けれども彼女は怯むことなく続ける。
「日本人だからって簡単だなんて思わないで。彼女たちにだって尊厳があるのよ」
早口の英語で捲し立てたかと思うと、今度はあぜんとしているカップルの女性たちに向かって日本語で話しかけた。
「あなたたちも、もっとちゃんとしなさい。今どれだけ自分たちがひどいことを言われていたか、わからないの?舐められないようにもっと勉強して、自分を大事にしないと」
あまりのことに呆気に取られていた女性たちは「は?何この人」と怪訝な顔をした。
そして、男性のうち1人が立ち上がり、怒りをあらわにしながらスーツの女性に暴言を吐こうとする。
僕は慌てて彼を制止し、ここが公共の場であること、彼らの会話の内容の低俗さに自分も許し難いことを強気で伝えた。
すると面倒くさくなったのか「S**t!」と吐き捨てるように言い、カップルたちは共にカフェから出て行こうとした。
その後ろを先ほどの女性が追いかける。
女の子たちに自分の名刺を差し出すと「弁護士なの。何かあったらここに連絡して。きっと力になれるから」と。
彼女の振る舞いに感心して見ていると、戻ってきた彼女と不意に目が合った。
「彼らに何もされませんでした?」
僕が聞くと、彼女は「ええ、大丈夫です」と答える。
先ほどまで気がつかなかったが、よく見ると艶のあるストレートの黒髪が似合う、意志の強い目が印象的な美人だ。
安堵した僕が席に戻ると、彼女は今起きた衝撃的な出来事を共有したい気持ちからか、飲んでいたコーヒーを持ってこちらにやってきた。
そして「ここ、座ってもいいですか?」と、笑顔を見せる。
彼女の柔らかい微笑に、思わず僕はドキッとした。
それが、彼女との出会いだった。
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